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2019年09月30日

パフォーマンスの2分類を知りトレーニングに密度を

文:岩渕翔一

トレーニングの目的は競技パフォーマンスの向上であり勝利に近づくことです。実際はそのために色々な要素に対してトレーニングを行い、その要素がどうパフォーマンスに影響を与えるといった分析が必要になります。そして一口に「要素」といっても色々な分類があります。
最も一般的な分類は、
・筋力
・柔軟性
・スタミナ
・俊敏性
 
などといった体力と機能に特化した分類でしょう。筋力に対しては筋力トレーニングを、柔軟性に対してはストレッチを、スタミナに対しては持久走やインターバルトレーニングをといった具合にトレーニングを選択し機能強化を図ります。
また、JARTAでは「身体操作」は全てのパフォーマンスやトレーニングの土台になると考え、バランスや柔軟性、筋出力など機能要素を高レベルで同時実行する必要のある(アブレスト能力という)トレーニングが多くあります。
このトレーニングの分類はそもそも要素の階層が異なるため機能強化も身体操作も両方トレーニングを行う必要があることは以前の記事で解説しました。
身体操作系トレーニングVS筋力トレーニング 優秀なのはどっちだ
 
この他にも技術トレーニング、メンタルトレーニング、戦術トレーニングなど多くの階層やトレーニングの分類があります。この際、トレーナーがチームや選手にどの要素のトレーニングを求められているのかといったことを理解しておかなければいけません。例えば体力トレーニングを求められているのに技術トレーニング寄りのトレーニングを行なっては種々の問題が起こってしまうことは想像に難くありません。
 
今回紹介するのは、全ての競技パフォーマンスに当てはめることができる2つの分類です。この2つの分類は、強化を目的とするパフォーマンスがどちらに属するかで、必要なトレーニング手段と配慮しなければならない要素が大きく異なります。機能的要素がさほど大きく変わらなくても、手段が大きく異なってくるため知っておく必要がある分類です。
 

パフォーマンスを2つに分類する

 
競技パフォーマンスは以下の2つに分類できます。
・能動的パフォーマンス
・受動的パフォーマンス
 
【能動的パフォーマンスとは】
能動的パフォーマンスとは、選手が主体的に動き始めることができるパフォーマンスのことです。例をあげると、
・野球やソフトボールの投球動作
・テニスや卓球、バレーボールのサーブ
・サッカーのプレースキック
・体操競技
 
【受動的パフォーマンスとは】
受動的パフォーマンスとは、選手が相手チームの動きやパフォーマンスに対応しながら行うパフォーマンスのことです。例は、
・野球のバッティング
・テニスや卓球のラリー
・サッカーのオフェンスやディフェンス
・バレーボールのレシーブ
・格闘技全般
 
このようにパフォーマンスは能動的なプレーなのか受動的なプレーなのかの2つに分類することができます。このどちらに分類されるかでトレーニングに考慮すべきことが異なってきます。
 
【能動的パフォーマンスのトレーニングで考慮すべきこと】
 
例を出して解説します。例えば野球のピッチング。野球は投手が投球を開始しなければプレーが始まりません。投球動作は野球という競技のプレー開始スイッチのような役割を担い、先発投手であれば100球前後の投球数が必要になります。この反復を行うために最も基本的なことは、「投球フォーム」であり、同じフォーム(型)で安定した投球(パフォーマンス)を発揮することです。つまり、トレーニングの基本はフォームを安定させるための反復練習です。能動的パフォーマンスは自らが動き出すことで始まるため、物理的な邪魔が入ることはありません。イレギュラーな対応はほとんどないかわりに、どのような状況でもそのフォーム(型)を崩さずにパフォーマンスを安定させる必要があります。ピッチングであれば、試合開始の1球目なのか、対する打者は何番なのか、勝ってるのか負けてるのか、ランナーがいるのかいないのかなど。
このように能動的パフォーマンスは、試合状況とメンタルに大きく左右されます。つまり反復練習が基本になると言いましたが、その反復がどのような状況でもフォームが安定するように、タスクを追加した中で行うことや、精神的に追い込まれる状況をあえて作る(時間制限を設けたり、対戦形式にするなど)が必要になります。また、基本が反復練習であることは間違いないですが、投球動作の反復には投球障害を招いてしまうリスクがあることは昨今の投球制限の議論からも既に周知されています。ここではやはり投球動作というパフォーマンスを細分化し、安全に機能強化していけるトレーニングを提供することがトレーナーに必要な能力でもあります。
まとめると、
・能動的パフォーマンスには型が重要である
・型の安定には反復練習が必要である
・能動的パフォーマンスは状況とメンタルに左右されやすいためタスクを増やしたりプレッシャーを与える工夫が必要
・反復練習はオーバートレーニングのリスクがあるためパフォーマンスを細分化する分析力と安全に機能強化を行うトレーニングを提案できる必要がある
ということです。
 
【受動的パフォーマンスのトレーニングで考慮すべきこと】
受動的パフォーマンスは相手のパフォーマンスが先行する或いは、同時進行の中でのパフォーマンスになります。この際重要なのは、常に自分の思うようなプレーや理想的な動きができるわけではないということです。つまり、このパフォーマンスのトレーニングに必要になるのが、イレギュラーに対応するための身体操作の幅の広さです。例えば、対峙する選手が右に抜いて掛かると思って反応したのに左に抜きにかかった。変化球に身体が泳いでしまったなど。この時なす術なく抜かれるのか、空振りするのか。或いは通常の型やプレーではしないような動きで対応するのか。スーパープレーやファインプレーと言われるプレーは、このようなイレギュラーに対して目を見張るような動きから生まれることが多いです。
このプレーを支えるトレーニングにはもちろん筋力トレーニングやストレッチなどの基礎トレーニングであり、基礎的なプレーであることは間違いないです。ボクシングで左ジャブが重要だというように、ここでも型となり得る基礎は当然必要ですが、合わせて身体操作の幅を広げるための身体操作トレーニングもしていかなければなりません。
まとめると、
・受動的なパフォーマンスにはイレギュラーに対応する身体操作トレーニングが必要になる
・この身体操作を支えるのは筋力や柔軟性などの機能なので基礎トレーニングも当然必要である
・応用は基礎になる型があってこそであることは間違いない
・イレギュラーに対応するため、認知→判断→実行段階におけるビジョントレーニングを並行し、反応速度を速める必要がある
ということになります。

トレーニングに密度を

 
今回の提案で選手に必要なトレーニングはおそらく大きくは変わりません。プレーが能動的なのか受動的なのか。この分類の中で今どちらに対するトレーニングをしているのか。
これは今しているトレーニングをさらに発展させたり、タスクを増やす際のヒントになったり、評価の視点が増えることに意義があると考えています。今しているトレーニングの密度を濃くすること。この密度の濃さがこれから必要になるのではないかと考えています。
 
次回の記事では、今回紹介した能動的パフォーマンスに当たる投手のトレーニングについて。投手トレーニングセミナーでもお伝えしている、メンタルとパフォーマンスのコントロール法を一部紹介したいと思います。
 

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