意識再考2 -意識強化とは-

文:岩渕翔一

前回

・スポーツにおける「意識する」ことは脳内身体表現を強化することを「意識した」プログラムが必要であるということ。
・意識を顕在化することが身体パフォーマンスに直結する脳内身体表現をアップデートしていくにも非常に重要であるということが示唆される。

 

大まかにはこのような結論に至ったところまでを解説した。

 

前回の記事はこちら

意識再考 –序章–

 

今回はこの2つをさらに深掘りしていこうと思う。

スポーツにおける「意識する」ことは脳内身体表現を強化することを「意識した」プログラムであるとは具体的にどういうことだろうか。

 

脳内身体表現を強化することを「意識した」プログラムとは

人が運動を行うには、正しく自身の身体を認識している必要がある。運動を行う際は、あらかじめ実行する運動の計画を立てて適切なタイミングでその運動を実行する。この運動の計画は主に筋収縮の制御や調整、タイミングを決定している。一方でこの計画を立てる際、空間の中にある身体を適切に認識しつつ、空間の中にある自身と物体との位置関係、空間の中を移動する際に時間軸を主としたスピード調整などを適切に行う必要がある。

つまり、

・筋収縮を適切に制御できること
・時間と空間の中での身体および運動を正しく認識し運動計画を立てていること

 

この2つが脳内身体表現の強化に必要であるということである。

 

過去の研究でこれらが実際、脳内のどの部位で処理されているかは一定の知見が得られている。適切なタイミングでその運動を実行するには、多数の筋骨格系を動員し運動プログラムを立て実行する必要があるが、これには「運動領野ネットワーク」が強く関与している。

また、多数の感覚情報の統合で構成した空間情報と、時間軸も考慮した運動計画、実行した運動のモニタリングを行うには「前頭−頭頂ネットワーク」が強く関与している。

 

この「運動領野ネットワーク」と「前頭−頭頂ネットワーク」2つの強化がどうやら意識強化に重要らしいことが伺える。

 

少しわかりやすくするために例を出しておこう。例えばスクワットをする時。

一般的には、膝をつま先より前に出さないことや、足圧中心の垂直線上にバーベルが常にあることを意識しながら行う。膝をつま先より前に出さないことは股関節を軸にした運動を行いハムストリングスや大殿筋に刺激を入れるためである。もう一つの足圧中心の垂直線上にバーベルが常にあることは空間の中で身体とバーベルの位置関係がどうあるかに注意を向けている。それが結果的にハムストリングスや大殿筋、股関節内転筋群に刺激を入れるに適したアライメントになる。

一方で、「ケツで踏ん張る」ことを意識させたり、ハムストリングスや内転筋群をさすってから行うこともある。これらは筋肉そのものに注意や意識を向け、結果的に上記に提示したような運動様式や運動アライメントになっていることを理想とする。

ここで重要なのは目指す運動がどういったものなのかを明確に持っているということだ。トレーニングを行う上でのキューイングは異なるが、最終的に理想としている運動様式は同じである必要があるということ。

 

(運動領野ネットワーク優位)
筋肉意識→空間の中で理想的な運動アライメント→理想とする運動

 

(前頭−頭頂ネットワーク優位)
空間の中での理想的な運動アライメント→理想的な筋収縮→理想とする運動

 

大まかに分けるとこのどちらかのパターンで理想とする運動を行えるようにしていく。この際、どちらのパターンが得意でどちらが苦手か。ここにその選手の特徴や強化すべきポイントのヒントが隠されている。

 

前述したように、脳内身体表現の強化には、運動領野ネットワークと前頭−頭頂ネットワークの両方が必要だ(図参照)。これはつまり、得意な方ばかりをすると意識の強化に繋がりにくいということを示唆しており指導の際は特に注意が必要だ。アライメントや構造に注意を向けるのが良いのか、筋そのものに注意を向けるのが良いのか。ここは評価と強化のポイントの一つだ。

 

意識とイメージの違い

 

前回の記事で書いたように、意識には顕在意識と潜在意識がある。潜在意識には本人も認識していない意識が隠されていることも少なくなく、それは例えばトラウマや人格形成、思考に及ぶ。

しかし、イメージは違う。イメージは具体化できてこそイメージだ。「イメージが湧かない」と表現することがあるが、湧かないイメージはイメージではない。そういった場合はまずイメージを作るための作業が必要で、手本を見せたり、運動の一部を呈示し手掛かりを掴めるよう補助する。その際、どのように動くかだけでなく、「どの関節をどのように動かすか」や、「どの筋を優位に働かせるべきか」など具体的なものも呈示する。

また、イメージの生成はこのようなオンラインなものだけではない。例えば、「その動きを可能にするためのトレーニングをイメージしてください」や、「160kmのボールをホームランするイメージをしてください」などオフラインのイメージ生成にも着手する。

 

ここまで読めばもうわかるだろう。イメージとは身体脳内表現を強化する一手段なのだ。イメージすることは、運動領野ネットワークや前頭−頭頂ネットワークを活性化する手段になる。

 

意識したりイメージすると逆にパフォーマンスが落ちることがあることは、ここまでですでに解説できている。要は、理想とする運動を作る最短距離のプロセスは人によって異なる。イメージも同じでイメージの生成にもあらゆる面で人差がある。

仮に、運動そのものが既に理想的なものであっても、違うことを意識させた際にできなくなってしまうのは、この記事で解説した脳内ネットワークを踏まえれば往々にしてあり得るということだ。

ただこれに関してはネガティブに捉える必要は全くない。目的と原因さえ明確にしておけばタイミングを見誤ることはないし、最終的にはさらなるパフォーマンスアップに繋がるトレーニングになるはずだ。

 

 

今回2回に渡って「意識」というものを取り上げた。

実際「意識」や「イメージ」というものはスポーツ界では頻繁に用いられる言語であるにも関わらず、その中身はあまり深く追求されていなかったように思う。

そういった現状から、脳科学をベースに可能な限り具体的に「意識」を捉え、すでに既知のものをベースに私見を交えて考察した。

今回のコラムがなんらかの形で選手やチームのトレーニングに活かされ、トレーニングの在り方を考える一助になればと思う。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

 

<参考資料>
1)太田順,内藤栄一,芳賀信彦:身体性システムとリハビリテーションの科学 1 運動制御 東京大学出版会,2018
2)近藤敏之,今水寛,盛岡周:身体性システムとリハビリテーションの科学 2 身体認知 東京大学出版会,2018
3)森岡周:リハビリテーションのための脳・神経科学入門改訂第2版,協同医書出版,2016
4)Mark Rippetoe著,八百健吾監訳:スターティングストレングス 第3版 医学映像教育センター,2019

 

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