投手のスタミナを考える 〜第3回:投手のスタミナ強化トレーニング〜

文:岩渕 翔一

 

-前回の続き

 

第1回で、投手のスタミナを強化するには、持久力、筋力、リカバリー力の3要素が必要であることを解説しました。

第2回では、投手に走り込みは必要であることを解説しました。

 

第1回:投手に必要なスタミナとは

第2回:投手に走り込みは必要か

 

最終回の第3回では、具体的にどのように走り込み考え行っていけばいいのかをお伝えします。

 

 

その前に。今回論じているのはあくまで"投手にとって"であって、"野球選手にとって"の話ではありません。

DH制があるプロや社会人、大学野球と違って高校生までは投手も当然打席に立ちます。チームの中心選手であればあるほど、投球していないときは別のポジションを守り野手として試合にも出るでしょう。

野球選手にとってや、野手にとっての走り込みやスタミナとなるとまた少し内容も考え方も変わってきます。高校や中学で投手をしている選手は、投手のトレーニングに加えて、捕る、投げる、打つ、走るといった野球全般のトレーニングと練習をしなければならないことを念頭に置いてください。

 

では、ピッチングに有効な走り込みトレーニングについて。

 

 

ピッチングの運動構造(スタミナベース)

1試合9イニングを完投する投球数の目安はおよそ100球です(効率よく打ち取って行けた場合)。
また、1イニングの投球数はおよそ10〜20球です。

高校野球であれば1試合の所用時間は2時間程度なので、1イニングが12〜15分程度。つまり、6〜8分程度の中で10〜20球程度投球し、6〜8分ベンチで休み、またマウンドへ上がる。このような構造になります。

 

前回解説した、運動時のエネルギー供給機構をもう一度確認してみます。

 

 

一球一球の投球そのものは高負荷の運動になるため、まさにこのグラフとほぼ同じようにエネルギー供給が行われることになります。

グラフにある赤線の全エネルギーをみて分かるように、投手で言えば回を追うごとにエネルギー供給は枯渇していき、それがいわゆる疲労になります。

この曲線の右下りを極力抑え、疲労を起こさない、あるいは疲労を起こしにくくすることが投手にとってのスタミナ強化です。

 

このグラフ上でそのために必要なのは、

・無酸素系回路(ATP−CP系、解糖系)の速やかな回復
・有酸素系回路の強化

この2つです。

ATP−CP系の回復には3〜5分必要と言われ、その回復には有酸素系回路で生成されたATPとクレアチンが利用されます。解糖系回路ではその副産物として乳酸が生成されます。この乳酸は有酸素系でエネルギー源として利用されます。

 

つまり、有酸素系回路はそのものがスタミナに直接寄与していると同時に、無酸素系回路の回復にも寄与しており、有酸素系回路の強化がスタミナ強化、リカバリー力強化の両方に重要であるということです。

上記の運動構造でいうと、投球中や投球間での運動エネルギーの確保と、ベンチで控えている時間のリカバリー力に非常に重要であるということです。

 

 

遅筋↔︎速筋のタイプシフトは起こらず、速筋間のタイプシフトがあることは前回の記事でお話ししました。

この事実は、「有酸素運動で懸念される筋力低下は筋肉の分解による筋肉総量の減少のみである」ということです。

つまり、運動によって起こる筋肉の分解が筋肉再生を超えない範囲内であれば問題ないということです。

 

ですが、ここでもプロと学生では対応が異なってきます。プロ選手はオフシーズンとインシーズンとがあり、総じてオフシーズンに体重増加を図るケースがほとんどです。

 

 

これは、シーズン中になると先発であればローテーションを守り、中継ぎや抑え投手であれば常に投げる準備をします。

そのため、体調管理とリカバリーが主になり、積極的なフィジカルトレーニングやレジスタンストレーニングをなかなか行えません。

なので、シーズン中はいかに筋量減少→体重減少→筋力低下を起こさず過ごすのかというのが課題の一つです。

そういう意味で、強化を目的とした有酸素運動というのはやはり行いづらいです。

有酸素運動というのは筋力の強化にはならず、脂肪燃焼、筋肉の分解、呼吸循環器系によるスタミナ強化がその主な効果であるからです。

 

投手に必要なスタミナに、「1シーズン怪我なくこなせるスタミナ」をあげていますが、有酸素運動そのものがこの目的にマイナスになるようなら本末転倒です。

レジスタンストレーニングでも筋肉の分解は起こりますが、損傷後の再生で筋繊維は太くなっていきます(筋肥大)。なのでやはり併用していくことが基本ですが、それがシーズン中ではなかなか困難であるということです。

 

しかし、学生であれば、毎日試合があることはほとんどないので、この併用がトレーニングプログラム次第で十分できるはずです。

 

また、試合終盤になると足がつる(筋痙攣)投手が多くいます。筋痙攣を起こす部位のほとんどがふくらはぎ、ハムストリングスのためここの局所的なスタミナも重要です。

筋痙攣を起こす原因は完全には明らかにされていませんが、脱水、疲労、血圧低下、電解質異常がその主たる原因といっていいでしょう。ここで重要なのは筋持久力です。筋持久力の強化はその局所の血流量増加を起こすためです(第2回参照)。

 

 

投手のスタミナ強化走り込みトレーニングの一例

[長距離の走り込みはリカバリー力強化を目的とする]
長距離の走り込みはジョギング程度のペース。30分〜1時間程度を心拍数が高くても120〜150程度で抑え、有酸素系回路の強化を図るために行う。

 

[中距離の走り込みと短距離最長の走り込み]
原則としてオフシーズンや試合間隔が空いてる際にのみ実施。エネルギー供給機構の機能強化と持久力強化が目的。2〜3kmのタイムトライアル、300m程度の強度が強いランを2分の休憩を挟み5本程度行う。

 

[インターバル系の走り込み]
距離は塁間〜70m程度。強度は50〜70%程度で10本が目安。目的は筋持久力強化と、エネルギー供給機構の強化によるリカバリー力強化。

 

[ダッシュ]
10〜30m程度。全速力で行う。2本ダッシュ後1〜2分の休憩を3〜5セット。筋力と瞬発力、無酸素系のリカバリー力強化。

 

[坂道ダッシュとジョギング、ウォーキング]
トレッドミルがあれば傾斜15度で行う。最初は13分/km程度の速度で5分歩く。その後、10分/kmペースで5分ジョギング。その後5分休憩。これを1サイクルとし3セット程度行う。
足関節が常に伸張位になるため、持続収縮を強制的に促され、筋持久力と筋力強化に有効。試合終盤のふくらはぎの筋痙攣を起こす選手には特に推奨。

 

 

あとは原則的に、

・高負荷のトレーニング後に有酸素運動を行う
レジスタンストレーニング後は成長ホルモンの上昇がみられ、その後の有酸素運動中に遊離脂肪酸濃度が高まり、脂質分解や利用が亢進すると言われています。そういったことから筋肉の分解を抑えることができるため、原則はこの順で行うことが現時点では望ましいです。

 

・練習中の移動は走る
練習中の移動はトレーニングと認識します。2〜3時間の練習中に何度も行われる移動でその都度走ることでエネルギー供給機構の強化と筋持久力強化に繋がります。
また、試合中の運動構造と似ているためスタミナ強化に繋がりやすいです。

 

 

上記はあくまで例です。

目的を明確にし、これまで解説した生理学・解剖学的事項に沿って距離やインターバル、本数、休息時間を設定しています。

このまま現場で使うのではなく、目の前の選手に必要なスタミナ強化やトレーニングを熟慮し最善のメニューを適宜提案することです。

 

 

 

まとめます。

・スタミナ強化に必要な要素は、
[筋力][持久力(全身持久力・筋持久力)][リカバリー力]

・スタミナ強化で考慮すべき生理学的事項はエネルギー産生機構

・スタミナ強化で考慮すべき解剖学的事項は筋繊維のタイプ

 

これらを踏まえた上で多種多様な走り込みが必要であるということです。

 

 

全3回の中で、投手に必要なスタミナとは?から逆算し、解剖学的・生理学的背景を提示しました。

走り込みの効果はプラスばかりでないことを念頭に、その時何が必要なのか選手やチームの状況を考慮し、
それらを踏まえた上でどのように考え、トレーニングを考案しているかを解説させていただきました。

 

今回「走り込み」の定義は「走りのトレーニング全般」を指しています。

あえて触れませんでしたが、投手は他にフィールディングやベースカバーに入るなど投球以外の運動があることも踏まえていかなければなりません。

 

また、JARTAトレーニングは身体操作系が多いと言われることがありますが、こういった「走る」ということや「スタミナ」ということの基本的な解剖生理をおさえた上でトレーニングを行っていますし、行われるべきです。

今回のテーマであれば、「走りの質」や「スタミナを上げる効率的な身体の使い方」という部分を並行してみていきます。

 

とにかく、私が言いたいのは選手やチームの成長を望むのなら、トレーナーはとにかく考えつくし、専門家らしい論理と根拠を持って欲しいということです。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

第1回:投手に必要なスタミナとは

第2回:投手に走り込みは必要か

第3回:投手のスタミナ強化トレーニング

 

投手用トレーニングセミナーはこちら