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2019年01月07日
投手のスタミナを考える 〜第1回:投手に必要なスタミナとは〜
文:岩渕 翔一
スポーツトレーニングを考案する際、「なぜそのトレーニングをするのか?」という明確な目的と理由が必要です。
トレーニングを考案する方法は大きく分けて2つあります。
1つ目は競技分析を基に必要な動きや能力を導きだし、それらを強化するトレーニングを考案すること。
2つ目は「人の身体」という普遍的なものをより深く探求し、基盤となる身体と動きや機能そのものを強化するトレーニングを考案すること。
どちらかが大切ということではなく、目の前の選手やチームに対するトレーニングを考える上で両側面からの視点がなければ効果検証を行えず発展的に変化を作ることもできません。
常にプレーの側面から、身体や動きの変化の側面からの両輪で評価し、考案することが重要です。
野球選手。とりわけ投手の走り込みの是非というのは近年だけでなく、ずっと議論されているであろうテーマの1つです。
1〜2年ほど前にも、ダルビッシュ有選手が走りこみを無くすべきという発言をし、話題になりました。
投手が行う走り込みの目的は、主に「下半身の強化」と「スタミナ強化」であることは、走り込み肯定派も否定派も異論はないでしょう。
となると前述した、トレーニングを考案する際の2つ目。基盤となる身体と動きを強化するという点で走り込みの目的は共通の認識があるはずです。
そうすると、1つ目である競技から逆算し、トレーニングを考案する際の過程を明確にすればいいはずです。
つまり、投手に必要な「スタミナ」と「下半身強化」がどのようなものかを明確に定義しなければ、走り込みの是非は議論できないし、トレーニングも考案することができません。
投手に必要なスタミナと下半身とは
「スタミナ」という言葉はかなり曖昧で、体力、持久力、精力、耐久力などの意味を含むのが一般的です。
投手に必要なのは、
・1試合投げ切ることができるスタミナ
・連投をこなせるスタミナ
・1シーズン怪我なくこなせるスタミナ
こういったところでしょう。このスタミナを高めるためのトレーニングが投手に必要なわけです。
持久力とは、身体活動を疲労することなく長時間に渡って維持し得る能力のことをいいます。
また持久力は全身持久力と筋持久力という2つの要素があります。
<全身持久力>
全身持久力を鍛える方法はいわゆる有酸素運動です。
循環器系に過度の負荷をかけずに、少なくとも1回30分以上の持続が可能で代謝・内分泌系に進行性の変化を惹起しないレベルの運動(心臓リハビリテーション必携参考)で、全身の骨格筋の1/7〜1/6以上の筋肉が動員される全身運動です。
<筋持久力>
筋持久力には、動的筋持久力と静的筋持久力という2種類があります。
◯動的筋持久力
一定の動作を一定のリズムで何回繰り返すことができるのか。あるいは、一定の負荷を一定のリズムで何回持ち上げることができるのかといったもの。
最大筋力の20〜30%程度の負荷が動的筋持久力を評価、強化する方法として一般的です。
◯静的筋持久力
重りを持ち上げたままその状態をどれだけの時間維持できるのかといったもの。
動的持久力と静的持久力には相関があるので、動的持久力が高ければ静的持久力も高くなります。
持久力とはこの全身持久力と筋持久力から構成されます。
よく言われるのは、全身持久力や長距離の走り込みを指して、「そんな長距離を長々とスローペースで走る必要はない。むしろ筋の分解を起こしてマイナスだ」といういわゆる長距離ランニングを指しての走り込みの否定です。
これに関しては第2回で詳しく考察しますが、持久力が投手にとって必要なことは間違いありません。
話が少しそれましたが一般的には、
スタミナ = 持久力
と思われがちですが、
上記の持久力の構成をみてわかるように、投手に必要なスタミナは持久力だけではありません。
ピッチングにとって必要なスタミナは、あくまで前述した、
・1試合投げ切ることができるスタミナ
・連投をこなせるスタミナ
・1シーズン怪我なくこなせるスタミナ
であり、持久力はこの条件を満たす一要素でしかないことがわかります。
では、このピッチングに必要なスタミナの要件を満たすためにはほかになにが必要なのか。機能的な要素でいうと、「筋力」と「リカバリー能力」の2つです。
前提として投球動作は高強度の負荷を反復して行う動作です。
ですので、筋力の絶対値を上げることで、一球ごとの負荷を軽減することができるので持久力は結果的に向上します。
さらに、野球は攻撃と守備を交互に行っていくスポーツです。
自チームの攻撃中は当然投球しないため、その時間で、筋温や体温を落とさないこと(キープウォーム)。またベンチにいる時間で身体を回復させる能力が重要です。
また学生野球の投手や、中継ぎや抑え投手の場合は連投を想定しなければなりません。
このように1試合を投げ切ることや連投に耐え得るスタミナという観点に立つとリカバリー能力は必ず必要になります。
これが投手に必要なスタミナです。トレーニングを考案する際はこれら要素の強化と相互関係(関係主義)を考慮する必要があります。
次回、これを基に「投手に走り込みは必要なのか」を考察していきたいと思います。
第1回:投手に必要なスタミナとは
第2回:投手に走り込みは必要か
第3回:投手のスタミナ強化トレーニング
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