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2019年04月08日

ジュニア世代の運動指導で押さえておくべきポイントを脳科学を踏まえて解説

 

文:岩渕翔一

 
ジュニア世代(特に小学校低学年まで)のトレーニングにおいて飽きさせない工夫や注意を引く工夫、こちらのやって欲しいことをさせるための工夫などを教えて欲しいと質問がありました。
面白いテーマなので今回はこのテーマに関して考えていきたいと思います。

 
 

子供は興味が全て

子どもは残酷なほど素直です。
面白い、カッコイイ、カワイイ、楽しい。
どれかがないと絶対に無理です。
正しいか正しくないかではありません。
楽しいか楽しくないかです。
 
教育テレビの「おかあさんといっしょ」をみてください。
 
お兄さんもお姉さんも常に笑顔で表情豊か。
大きな動きやジェスチャーで興味を引く。
ゆっくりで聞き取りやすい声のトーンやリズム。
 
トレーナーや運動を教える人という前に、人としての根本的なことが必要になるということです。そういう意味でいうとすごく学びのある現場がジュニア世代への運動指導ということになります。
 
 
では、そういった前提でどういったセッションを行うのか。
そこにはやはり専門家として論理と根拠のあるセッションでなければなりません。
・運動学習効果を促進するために必要な仕掛け
・運動能力だけでなく社会性を営むために必要な時間認知と空間認知に対する働きかけ
この2つを紹介します。
 
 
 

運動学習効果を促進するために組み込まなければならないこと

セッションの目的が運動指導である以上、具体的な目的は運動学習です。
運動学習効果を高めるためにはいくつもタネや仕掛けが必要になりますが、代表的なものを紹介します。
 
 
[自己効力感を高める]
自己効力感とは、行動を起こす際に「どの程度うまくできるのか」といった判断に関連するもので、自分ならできるといった確信や自信と位置付けられます。
この自己効力感が高い方が運動学習効果は促進されるということがわかっているのですが、そのために必要な工夫は、「自分自身で選択し、決定するという過程」です。
この選択し決定する過程は、無作為で無意識的に根拠がなくされるものではなく、通常過去の経験などによって判断基準が内面化されているものです。
つまり、この過程を与えることで、「これならできそうだ」「うまくできないかもしれないが楽しそうだ」などそういった判断が無意識に過程として行われるため、セッションにも集中して取り組め、なおかつ運動学習効果も高まるということです。
やりたい運動ややらせたい課題はあるでしょうが、選択するという過程を与える工夫をしましょう。
 
[グループで課題に取り組む]
一人で行うより他者と共同して行う或いは、他者と競争して行うほうが運動課題の遂行能力が向上し、成績が高くなることがわかっています。
共同して行う場合は特に女児(女性)に、競争して行う場合は特に男児(男性)に対してより効果的です。
ここで注意が必要なのは、競争した結果の勝ち負けにフォーカスしすぎないことです。
勝ち負けにフォーカスすることで、1つ目の自己効力感に対して良くも悪くも影響を及ぼし、内面化される判断基準が「出来る出来ない」や「勝てそう負けそう」といったことに偏る可能性があるからです。
そうではなくその過程に対してフィードバックするよう意識してください。
「最後まで頑張れたね」とか、「あの場面でみんな助け合ってできたね」とか、「自分の番じゃない時は応援できてたね」とかそういったことです。
 
[共感と激励]
共感と激励を意識する。共感と激励は運動学習に対し大きく3つの効果を与えます。
・エンハンシング効果
言語的報酬は動機付けを高めます。気持ちのこもった掛け声や、軽く背中を叩くなど身体に触れて(ザイアンス効果)激励することなど。
・ホーソン効果
人は関心を持たれるとそれに答えようとします。私のこと見てくれてるのかな?こういった感情を生まないよう注意してください。人数が多くなる場合はこの点が特に注意が必要で、環境設定や人の配置に最新の配慮をしましょう。
・ヒグマリオン効果
人は期待を抱かれるとその期待に答えようとします。児童の可能性や未来はそもそも無限大なので大いに期待し、それを全身フル活用し表現しましょう。具体的にはおかあさんといっしょを参照してください。
いずれも注意が必要なのは、結果でなく過程にフォーカスすることです。できるできないで判断することは絶対にやめてください。
 

 
 
 

運動能力だけでなく社会性を養うために必要な時間認知と空間認知

もう1つ。
これは私が子どもに関わる際、すごく重要視していることです。
子どもへの運動指導は運動がうまくなることだけが目的なのではなく、教育手段としての運動であり、社会で生きて行く力をつけるための運動であるべきです。
私は理学療法士として小児領域に携わっていますが、この小児領域のリハビリテーションで非常に重要なのは身体の空間的定位と、ボディイメージの構築です。
言葉が少し難しいですが、要は自分自身の身体を空間の中でしっかり保持しコントロールすること(空間的定位)。
そのためには自分の身体がどのようになっているかということを知覚すること(ボディイメージ)の2つが重要で、そのためには、空間認知と時間認知がベースとして必要になります。
そしてこの2つは社会性を養う上でも非常に重要な要素です。
 
[人は空間と時間の中で生きている]

 
例えば、キャッチボールをしているとします。
「この距離(空間)ならこれくらいの強さで投げたらこれくらいの時間で向こうに届く(こっちに届く)」
という判断を無意識に行いながらキャッチボールをしているはずです。またそれが走りながらキャッチしに行くような場面だと、
「この速さ(時間)なら思い切り走れば届く(空間)はずだ」
といった判断の元、投げる側も動く側も調節しているはずです。
これは全て空間と時間の認知があってこそで、その上で身体を動かします。
子どもはその認知力とその中での身体コントロールというのがうまく統合されていません。これを運動指導の中で高めることが直接的に運動能力向上に重要です。
そしてこれは間接的に集中力や物事を組み立てる力をつけることに繋がります。
 
 
[時間認知と空間認知が社会性を養うことになる]
前に述べたように、運動能力向上には空間認知と時間認知が重要です。
そのために例に出したようにボールなどの道具を使うことで自然にその両方を高めることも当然重要で行いますが、運動課題としては少し難易度が高いです。
そこで、簡易に行えるのは時間管理です。
私は基本的にほとんどの運動課題において時間設定を行います。
内容に応じて20秒〜3分程度で設定し、その間集中したり、時間に対する感覚を養うことを狙っています。
空間的定位とボディイメージに空間と時間認知が重要なのはお話した通りですが、時間認知に重きを置くことで運動課題としても易しくなります。
もう少し掘り下げると時間というのは空間があるからあるものなので空間認知も実は鍛えられています。
社会というのは、時間に管理されているといっていいほど時間の制約があります。
社会性とはその時間と空間の中で個体としてうまく生きていくことです。
このような運動の中で無意識に時間と空間に対する感覚を養うことは、その時間や空間の中でどう在るべきかを鍛えることに繋がりそれが、
・集中力をつける
・時間管理が上手くなる
・時間軸の調整
こういった社会性を養うことに繋がります。
運動能力が高い子の多くが集中力が高いのはこの空間認知と時間認知力が高いレベルで備わっているからです。
 
 

まとめ

子どもの運動指導に関わるために知っておきたいことをテーマにしました。
・人として根本的な人間性
・子どもが楽しめる仕掛け
・専門家としての論理性と根拠
子どもたちへの指導はむしろ我々を成長に導いてくれるものです。試行錯誤を繰り返し、子どもたちがイキイキするセッションを目指しましょう。
 
 
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 
 

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