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2020年01月13日

【トレーナー向け】アスリートの歩行および立位分析のコツ

 

文:岩渕翔一

競技パフォーマンスの動作分析はスポーツトレーナーにとって最も重要なタスクの1つです。
動作分析が担う、あるいは鍵になる仕事は、
・現状のパフォーマンス分析を行い、そこから出た課題に対するトレーニングメニュー構築
・トレーニング内容の取捨選択を行う上でのトレーニングそのものの分析や構造の理解
・障害予防や故障からの復帰におけるリスクの管理
 
などは動作分析が必須の仕事になります。それ以外にも多くの仕事で非常に重要な役割を担っています。
 
「あの選手は立ち方が素晴らしい」
「歩き方を見ただけで良い選手だということが分かる」
 
このような話を大なり小なり多くの方が聞いたことがあると思います。サッカー元日本代表の小野伸二選手がまだ高校生の頃、フィールドに立っている姿を見ただけで「あの選手は素晴らしいだろう」と海外のあるコーチは言ったといいます。
基本動作である立位や歩行はその選手の分析を行う上で非常に重要なヒントが隠されている一方で、分析が難しいと言った側面も少なからずあります。なぜ難しいのでしょうか?また、ほとんど誰もが当たり前にできるはずの立位や歩行で、なぜその選手の質が透けて見えるのでしょうか?
 

立位・歩行分析が難しい訳

なぜアスリートの立位や歩行分析が難しいのか。
ここで少しリハビリテーションの話をします。
例えば理学療法士は基本動作の改善を主目的として障害者のリハビリテーションを行います。その際、筋骨格系、中枢系、呼吸循環器系、内分泌系などどのような対象であっても基本動作ができているできていないの判断の基準となるのはADL(日常生活動作)です。
・家の中を自由に歩行するためにはこれくらいは歩けないといけない。
・近くのスーパーに歩いて買い物に行くためにはこれくらいの距離は安定して歩けなければいけない
・自分でトイレ動作を遂行するためには下衣の着脱を立位で安全にできなければいけない
・その歩容で生活を続けた場合二次障害のリスクは高くないか
 
など。その基本動作を分析するための基準が歩行そのものだけではなく、歩行することの目的にもあるため、分析を明確な基準を持って行うことができます。
 
ここでアスリートの基本動作分析に話を戻しましょう。当たり前に歩ける、立てるからこそ基本動作だけみていては、何をどう見て良いのかがわからなくなってしまいます。
「歩行分析と言っても歩けるし何をどうみれば良いのだろう」
これがアスリートの基本動作分析が難しい原因です。「できる動作をみる」というのは「その質をみる」ということです。であるならば、アスリートがなぜ歩くのか立つのか。何を目的に立つのか歩くのか。これらを明確に定義づけなければなりません。
 

アスリートの立位と歩行を定義する

さて。ではアスリートの立位と歩行を定義してみましょう。どのように定義するのか。百聞は一見に如かずです。
以下の動画をまずはみてみましょう。
https://youtu.be/zIoR9VzSBBk

 
1つ目はタイガーウッズ選手。2つ目はFCバルセロナの試合前アップの動画です。それぞれその競技において言わずと知れたトップ選手です。では、そのトップ選手の立位姿勢と歩行動作はどうでしょうか?同じでしょうか?
いうまでもありません。全く違いますね。
つまり、立位や歩行を分析する上での定義は競技によって異なるということです。この動画を認定コースのトレーニング実践1で見せたところ、ある受講者の方はバルセロナの選手は跳ねるように歩いて、タイガーウッズ選手は芯がある感じだと形容しました。それぞれもう少し具体的にみていきます。
 
[サッカー選手の立位と歩行]
サッカーは前後半45分ずつをフィールド内あらゆる方向、あらゆる動き、あらゆるスピードで動き続けなければなりません。走行距離も平均で10kmほどになります。それを踏まえて考えてみると
・いつどんなタイミングでもどんな方向にも動き出せる立位と歩行
・視野を広く保つことができる立位と歩行
・夏場は省エネ、冬場は身体を冷やさないような立位や歩行
このような立位であり歩行でなければなりません。

 
[ゴルフ選手の立位と歩行]
ゴルフは長い時間長い距離を移動しながら行う競技です。例えば全米オープンでは予選ラウンド2日間、決勝ラウンド2日間の計4日間で72ホール(1日18ホール)を回らなければなりません。またゴルフは広大なコースの中で、小さなボールを小さなカップに入れる競技です。手元の0.1mmの誤差が致命的なミスショットに繋がる競技です。それらを踏まえて、
・長い移動や立位で疲れや体の硬さを出さない省エネで力学的効率性のある立位と歩行
・安定したスイングを行うための軸が形成された立位や歩行
・各ショットで集中力が出しやすい立位
このような立位や歩行でなければなりません。

 
 

定義づけを行いみるべきポイントを明確に

このように各競技それぞれを見てみると、求められる基本動作像は全く異なることが分かります。そこを具体的にせず、単に歩行や立位を見ていては当然みるべきポイントを絞れないため「何をみていいのか分からない」といった状態になってしまいます。
まずは自分がなんの競技をしている選手なのかを踏まえ、その競技に必要な歩行と立位を定義づけましょう。その際、今回のサッカーとゴルフで行ったように、全く運動構造が異なる競技を見比べてみることで、より違いが可視化されやすくなります。
これらを行うことでみるべきポイントが増え、今しているトレーニングの課題や分析がより信憑性のあるものになります。パフォーマンスから基本動作。基本動作からパフォーマンス。トップダウンとボトムアップの評価両方を行うことでトレーニングを日常に落とし込むアイデアも生まれやすくなります。
 
動作の分析が苦手だという方は一度このようなワークをやってみることをお勧めします。
 
 
 
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