続・立甲を再考する

 

文:竹治久里子

 

“見た目だけの立甲”というエラーがなぜ起こるのか。

前回の記事で、「前鋸筋が機能的に使えていないことで、肩甲胸郭関節の安定性が低下している状態」と説明した。 (参照https://jarta.jp/training/15358/

 

このとき前鋸筋以外にも目を向けてみると、例えば、腹斜筋は使えているか、僧帽筋上部や広背筋は過剰に収縮していないか、胸郭と骨盤の連動性は・・・など、評価すべきポイントは他にも多々ある。

それらを理解した上で、今回はあえて、前鋸筋に焦点を当てて掘り下げていきたいと思う。

まずは、前鋸筋の作用を整理しておく。

第1~第8肋骨の外側・上縁と肩甲骨の内側縁に付着部を持ち、

肩甲骨を外転・上方回旋させ、肋骨(胸郭)を肩甲骨に引き寄せる。

教科書などではこう書かれていることが多いが、実際にどんな作用を起こすかというと、

胸郭に対して肩甲骨(上肢)が動くと、パンチング動作になり、

肩甲骨(上肢)に対して胸郭が動くと、胸郭が後方へ引かれるような動きになる。

さらには、動きとしては見えにくいが、

内旋位にある肩甲骨を外旋させることで翼状肩甲を抑制し、

付着部の両端から同時に収縮することで胸郭を安定させる。

といった作用もある。

 

では立甲において、前鋸筋はどのように作用しているだろうか。

結論としては、上記全ての作用を発揮する必要がある。

立甲は基本的に四つ這いで行うトレーニングであり、地面を押すという動作においては、しっかりと収縮する必要がある。

また肩甲骨を“立たせる”ためには、胸郭と肩甲骨が引き離される必要があり、ある程度の弛緩が必要となる。(もちろん、完全弛緩ではない。)

さらに言うと、立甲の状態を機能的に使うためには、胸郭(体幹)の安定性が保たれる必要性があるので、一定の収縮力を維持しなければならない。

これら全てがバランスよく機能していること、それが立甲における前鋸筋の作用である。

強く収縮させるだけではなく、もちろん弛緩しきっているわけでもなく、肩甲骨の可動性を有したうえで、前鋸筋の収縮力を発揮できる状態。これが、立甲を習得した先にあるべき理想である。

ここで一つ、トレーニングを紹介する。

 

四つ這い姿勢をとり、重心を一側上肢に移し(写真では右上肢)、反対側の手は一段下げたところに着く。下げた手で、しっかりと床を押す。

押した力で重心移動が起こらないように、対側の下肢・体幹で押し返す(支える)。

重心を一側に残しておくことで、反対側の上肢は身体を支えるという役目がなくなり、押す動作にフォーカスしやすくなる。なおかつ、対側の下肢には重心がしっかり乗っているので、腹斜筋への収縮が入りやすい。

ポイントとしては、上肢で床をしっかり押すことと、腹斜筋や殿部・ハムストリングスがしっかり働いていること(骨盤・胸郭のぐらつきがないこと)。

見た目だけの立甲になっている場合、見た目上は肩甲骨が立っているので、可動性はあると考えられる。問題は、収縮力である。

私は、前鋸筋の収縮が入らない人に対して、前鋸筋のトレーニングをするのは非常に難しいと感じている。

なぜなら、収縮が入らない人は、そもそも前鋸筋に力が入っている感覚が分からないということが多いからだ。

そういったケースでは、直接前鋸筋にアプローチするよりも、間接的に、強制的に前鋸筋が働きやすい状況を作る方法が有効ではないかと考える。

今回紹介したトレーニングも、そこを意識している。

アナトミートレインでいうところの「スパイラルライン」をみると、前鋸筋からの筋連鎖は、外腹斜筋・内腹斜筋を通して骨盤まで続いている。

つまり、骨盤を安定させること、腹斜筋を収縮させることで、前鋸筋まで波及させるというのが狙いの1つである。

さて、今回は前鋸筋に焦点を当てて掘り下げていった。

しかし実際には、前鋸筋のみで話を進めるのは難しい。なぜなら、立甲は前鋸筋だけが使えれば出来るというものではないし、前鋸筋だけを鍛えたいわけでもない。

さらに言えば、立甲は「出来ている」か「出来ていない」かの二択ではなく、前鋸筋をはじめとした身体機能がいかに上手く使えるか、その質を高めていくものである。

「上手く使える」ためには、柔軟性も必要だし、筋力も必要だし、それらをコントロールする力も必要。しかも1つの部位でのコントロールだけでなく、複数の部位で同時にコントロールする力も必要だ。

「立甲」一つとっても、考えるべき要素は無限大である。

 

ぜひ、様々な角度から考察を深めていただきたい。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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