そのトレーニング指導で選手は成長できるのか

文:伊東尚孝

トレーニングを指導する時、まず手本の動きを見せてから選手に実行してもらうことが多いと思います。

手本の質が高いほど、選手が実行するトレーニングの質の上限を引き上げることができるため、JARTAでは手本力を高めることも重視しています。

しかしながら、質の高い手本だとしても質の高いトレー二ングを指導できるとは限りません。

なぜなら、トレーニング指導にはキューイングが必要であり、言葉の選び方がパフォーマンスに大きく影響するからです。

皆さんは、どれだけ言葉にこだわりを持って指導しているでしょうか。

例えば集団指導では、全ての選手が理解できる言葉を選択しながら指導されているでしょう。しかし、その言葉の受け取り方は選手によって様々です。

例として肋骨の動きを伴うトレーニングを指導するとします。そこで「肋骨がねじれるように、左右がズレるように、胸が広がるように」など、さまざまな言い方で選手に伝わりやすい言葉を選択するかと思います。

しかし、そもそも肋骨が動くという概念がない選手がいたとしたらどうでしょうか。

同様のキューイングでは求めている動きを理解できず、その結果トレーニングの質が低下するかもしれません。

これでは、全ての選手との共通認識を持ってトレーニングに取り組めているとはいえません。

こういった事象はチーム指導に限らずパーソナルトレーニングでも起こり得ることだと思います。

どのように指導すれば、トレーナーと選手が共通の認識を持ち、質の高いトレー二ングを行うことができるでしょうか。

その手段のひとつを、私の指導経験を元に解説していきます。

【共通認識を持つために○○を使う】

では、具体的なトレーニングを提示しながら解説していきます。

このトレーニングのポイントは、

①腰椎の弯曲を安定させるために股関節を捉えつつ(下半身をスタビライズ)、②上部体幹は力まず柔軟に動かすこと(上半身の操作性の向上)の2点です。

特にバッティングやテニスのストロークなどで必要となる要素のひとつです。

私が指導しているチームでは①のポイントは達成できており、上半身(特に胸郭)をいかにして動かせられるかが課題となりました。

チーム内には胸郭の動きを伴わずに腕だけを大きく動かす選手がおり、そのような選手に「胸を大きく動かして」とキューイングをしても、運動のイメージがつかない場合がありました。(もっと複雑で複合的なトレーニングであれば尚更です。)

また、どの程度動かせば良いかの指標も曖昧となる可能性もあります。

私はそれらを解決するために、

選手自身の身体に注目させずに、外部環境を使いながら指導する方法を選択しました。

棒をできる限り地面に対して垂直に保ちながら、身体の周りを回すように設定しています。

目的の動きは当初と同様で胸郭の動きを誘発させるものですが、選手へのキューイングは上記のように「棒がどのように動くのか」というコマンドを選択しました。

「地面に対して垂直」という意味さえ理解できれば、どの選手もそれを達成しようと自然に胸郭を動かすように努力します。(四股をキープできているという前提)

つまり、外部の環境に対してどう動けば良いかを導くことにより、結果的に引き出したい動きを達成していることになります。

これにより、たった一つのキューイングで全ての選手と共通認識を持ちトレーニングを指導することができます。

(場合によっては、棒を持つ位置を変えるなどの難易度の調整も必要です。)

【外部環境を使うとパフォーマンスに転移できる】

また上記のように自身の外側に注意を向けることで、パフォーマンスに転移させる効果もあります。

トレーニングをパフォーマンスにつなげるにはどうすれば良いか、悩んでいる選手も少なくはないと思います。パフォーマンスアップに必要な要素のひとつとして、運動学習は欠かせません。(JARTAトレーニング4原則にも「運動学習の原則」が挙げられています。)

これもトレーニング指導の方法によっては、運動学習の効果を上げることが可能となります。

先ほどの例では、「胸を大きく動かす」というのは身体を動かす方法に注目しています。一方で「棒が身体の周りを回る」というのは動作の結果に注目しています。

これを競技に当てはめると、例えばテニスのストロークで「肘をどの程度曲げるかに注意を向ける」ことと「ラケットの軌道に注意を向ける」ことに置き換えることができます。

後者のように、外的環境に注意を向けながら動作を実行するほうが、運動学習の観点からいえば効率の良いトレーニングとなるということが、多くの研究で証明されています。

身体を動かすには脳からの運動指令が不可欠であることは言うまでもありませんが、一方で外的環境も運動の制御に関与しているという観点があります。

私たちが歩くためには、脳からの運動指令や脊髄の運動パターン形成によって制御されていますが、重力があり硬い地面があるからこそ反力を受けることができ、ようやく歩くことを可能にしています。(無重力では少なくとも歩くという動作にはならないということ。)

すなわち運動の全てが脳による制御ではなく、外的環境によってもたらされている要素も含んでいるということになります。

これは生態心理学という観点で提唱されているものであり、運動学習を進めるためには自身の外側にも注意を向けることが必要だといわれています。

少し話が逸れましたが、

ここで伝えたいことは、同じトレーニング動作を指導するとしても、選手へのキューイングひとつでパフォーマンスに大きく影響する可能性があるということです。

【まとめ】

パフォーマンスアップには限界がないのと同様に、トレーニング指導も追求し続けることで、より質の高いものを選手に伝えることができると思います。

今の指導方法で、本当に選手の成長を約束できるでしょうか。

現在よりさらに、一つひとつのトレーニング指導にこだわり続けることが大事だと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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