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2020年01月11日

闘いは日常の中にある

文責:真木伸一

 
スポーツの試合は、勝負なので必ず勝者と敗者が存在します。
一つの試合に勝つために、選手は一年、二年、あるいはそれ以上の時間を競技に捧げ、準備する。
そうやって準備してきたことは、当日の会場で全て対戦相手にぶつけるわけですが、それでもあえなく敗退することがあります。
そんな時、選手は必ず「自分の何がいけなかったんだろう」という思考を持つと思います。
自分のやってきたことを振り返り、取り組みに甘かったところはなかったか、できることは全てやってきたか。
そうして振り返ってみて、競技人生全てにおいて嘘偽りなし、と思えたら、「全部ぶつけてダメだったのだから、潔く負けを受け入れよう」という心境になれるかもしれません。
心境の話ですから、これはあくまで推測の域を出ません。
 
 
 
スポーツ現場で活動していると、どうしても破れない壁にぶつかることがあります。
何度挑戦しても勝てない相手、連覇を続ける強豪、なぜ彼らが勝ち続けられるのか、そして、どうして我々はそこに敵わないのか。原因を探り、対策をしてまた挑戦をする。
やれることは全部やったと思って臨んでも、かなわないこと、そんなことがあるわけです。
複数の競技や選手にトレーナーとして関わっていると、その双方の立場に携わることになります。
 
全身全霊をぶつけて来る相手を跳ね返す側、全てをぶつけても跳ね返される側。
この双方のどちらにも携わっていると、その違いがみえることがあります。
それはなんなのか。単純に考えれば、普段の取り組みです。
 
試合当日、もしくはそこに至る今シーズンの準備、などが大きくフォーカスされます。
実際に、競技レベルが「頂点を競うもの」でなければ、それらの準備で大勢がひっくり返ることもあるでしょう。
しかし、頂点を争うトップレベルにおいては、実は勝ち負けはもうそんなところにはないのかもしれません。
その試合に向けた準備や当日のコンディションは、大変重要なことでありますが、見方を変えれば小さなことです。
 
目の前の選手は、どれくらいの年月をかけて今の自分を作り上げてきたのでしょうか。
競技のために割いた時間は、思考は、労力はどれくらいのものだったのでしょうか。
つまり、「どう生きてきたか」が問われるところまで、高いレベルで凌ぎを削るわけです。
 
私は、実際に何十年もその競技のために全てを捧げてきた選手が、その日に全てをかけて闘う姿を目にしました。
言葉にすれば簡単ですが、これはもう、壮絶なものです。
人生全てをかけて、臨む。
今年の夏が勝負だから、体重コントロールをしっかりやろう、来週試合だから、夜更かししないようにしよう、明日試合だから験担ぎにお参りに行こう、もう、そんなレベルの話ではありません。
 
今まで競技に費やしてきた時間、労力、思考、全てをその一瞬に凝縮する作業。
 
試合前、目の前に鬼神が立っている。
私にはそう見えました。
 
でも、及ばなかった。
トップの世界は、そういう世界です。
ただ、その選手は、その試合に臨むにあたり、何か自分の内面に大きな変化を作り出したようにもみえました。
その過程が、観ている人達に伝わったようにも思います。
彼は試合後、「胸を張りたいと思います」そう言ってくれました。
 
 
さて、この話を通して、トレーナーである我々は、どうあるべきだと考えますか。この場を借りて個人的なお話をしてしまうかもしれませんが、私の場合は自分のこれまでの人生はどうだったのか、ということを振り返らざるを得ませんでした。
 
「自分の何がいけなかったんだろう」という思考は、選手だけのものではないでしょう。
「今日はこのくらいでいいや」とか、「評価の対象にならないのならやらなくてもいいや」とか、「誰も見てないからサボってしまおう」とか。
そんな瞬間がどれだけあったか。
ベストは尽くしてきた。
 
ただ、目の前にいる選手を世界の頂点に引き上げたいのなら、生活の全てをもう一度見直す必要がある。
 
そう反省しました。
 
そして、この思いを持ち続けて、嘘偽りなく努力し続けていかなければならない。
今一瞬だけではダメなんだと、改めて自分を戒めています。
目の前の選手を助けているだけでは、世界は変わらない。
けど、目の前の選手を引き上げられなければ、足下すら定まらない。
トレーナーとしての道を歩み始めて、選手の人生を預かる立場にいる。
 
全ての責任を負うわけでなくても、自分の覚悟と取り組みは選手にそのまま跳ね返る。
自分にはまだ、できることがあるはずです。
 
それを探す旅は、トレーナーとして仕事をする限り終わりはありません。
今この瞬間も闘いは続いているのだと、心に留めて前に進みたいと思います。
 
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 

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