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2019年02月18日
投手の球数制限がもたらす野球界の成長
文:岩渕翔一
選手を守るため野球界が少しずつ変わろうとしています。
新潟県高野連の球数制限導入なるか
https://www.yomiuri.co.jp/sports/koshien/20190216-OYT1T50071/
軟式の少年野球も球数制限。一日70球
https://www.asahi.com/sp/articles/ASM2G4QVPM2GPTQP02H.html?iref=sp_ss_date
新潟県の球数制限に筒香選手も期待
https://number.bunshun.jp/articles/-/833235
命はなにより大切です。
命さえあれば、生きてさえすればどんな失敗をしてもまた前に進むチャンスがあるからです。だから人はなによりも先に命を守らないといけない。
それはなにも生き死ににおける命だけではなく、「選手生命」もそうです。指導者やトレーナーは勝ち負けやパフォーマンスを上げること以前に選手生命を守ってやらなければなりません。
というよりその大前提として選手としての命を守るために指導に当たらねばなりません。
肩や肘の故障があまりにも当たり前になり過ぎている
どんな世界や業界にも長年積み重ねてきた伝統と呼ばれるような歴史がある一方で、形骸化しているのではと感じることも多くあります。
野球界においては、あまりにも肩や肘の故障が当たり前になりすぎているのではないか?そのように感じます。
スポーツをする上で怪我をする。故障する。命が危険に犯される。これは当然、当たり前ではありません。だからスポーツにはルールがあります。特に接触プレーのある競技では、対人プレーにおける危険なプレーにはルールの中で厳しく管理されています(サッカーのイエローカード、レッドカードなど)。
では野球はどうでしょうか。
人と人との接触が起こるのはほぼクロスプレーのみです。これはルールがあり、何年か前にプロ野球のタックルが問題にもなりました。それ以外で選手の命を守り故障を防ぐためにあるルールや対応は、
- ・危険球
- ・バッティング練習時の投手のヘルメット着用義務化
これくらいでしょうか。
では、野球選手で多い故障はというとこれはもう圧倒的に肩と肘です。色々な調査がこれまで行われていますが、プロ、アマチュア問わずにやはり肘と肩の故障は多いです。他にハムストリングスの肉離れや、腰などの背部におきる故障が比較的多いですが、大きな違いがあります。
それは肩と肘の故障のほとんどは突発的に起こるものではないということです。肩と肘の故障のほとんどは、自分自身の動きの積み重ねによるオーバーユースとミスユースによって起こります。
質と量の相互関係
質と量というのはよく対比されることがあります。
質と量どちらが大事か?
これは大きな間違いで質と量は対比されるような関係ではなく、相互作用をもたらす関係にあります。例えば、新しく始めたトレーニングがあるとします。個人差はあるにしろ、誰もが最初はぎこちなくうまくできないでしょう。動作効率が悪く動きはぎこちない。そんな状態だと当然、質が良いとは言えません。質が悪い動きなのだから当然、疲れやすく量をこなすことができない。
そんな新しく始めたトレーニングの量をこなすことで徐々に動作効率の良い滑らかな動きになっていき、質が向上する。そうするとより量をこなすことができる。
質と量というのはこのように互いを担保し合う相互関係にあります。ですのでどちらが大事とかそういうことではなく、両方同じように大事です。
しかし、人は量に目を向けやすい。それはなぜか?量は規定しやすいからです。何回、何セット、時間、距離、期間など。あまり論理的な背景がなくても量は数で明確に規定できます。
一方質は具体的に規定することがなかなか難しいです。量をこなす際、「どのように行うのか」という中身の規定になるので表現や手段は無限にあると言っても過言ではありません。
量をルールで規定されれば現場は質に目を向けざるを得ない
今、野球界で議論に上がっているのは投手の投球制限に関してです。
球数制限、連投ルール、イニング制限など。いずれにしても量の制限の話をしています。以前に肩と肘の故障のほとんどはオーバーユースとミスユースによって起こることを話しました。今議論しているのはこのうちのオーバーユースを量の管理でどう防ぐかという話で、ミスユースを予防できるものではありません。
議論がどのような方向に進み、どのようにルールが変わるのかまたは変わらないのかはまだ不透明です。いずれにしても、ルールで量を規定されれば現場は質に目を向けざるを得ません。試合で投球数を制限されるのであれば、与えられた球数をいかにうまく使うのかを考え、チームには投手が複数必要になります。
量をルールで規定されれば質に目を向けやすくなり、それが結果的にミスユース予防の発展や育成の強化につながるはずです。
投球制限に関しては賛否両論ありますが、ルールが変わるにしろ変わらないにしろ、現場はそれに対応しなければなりません。その上で選手を守り、勝利を目指し、学びの場でなければならない。
ならば、いかなる変化もポジティブに捉え対応することで成長に繋げる。現場はそうあってほしいと思います。
質と量。選手を守るには両方必要です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
JARTA公式HP
https://jarta.jp
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https://jarta.jp/j-seminar/pitcher/