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2020年11月14日
基本をおろそかにすることなかれ
文:真木伸一
このブログをお読みいただいている皆様は、少なからずJARTAの活動にご興味を持っていただいている方という前提で今回はお話ししたいと思います。
あなたは、JARTAのどのような活動にご興味を持たれていますか?
スポーツ選手を指導できるトレーナー環境、トレーニング内容、東洋・西洋の枠にとらわれないコンディショニングスキル体系、それぞれの置かれた立場によって、その興味の方向はそれぞれだと思います。
認定講師を務めております、真木です。
トレーナーとして20年以上現場におりますが、選手の問題を解決するために私自身が一番大事にしているのは、「評価」です。
トレーナーとしての仕事の領域は多岐にわたります。
チーム内でのマネジメント業務から、外傷・障害への対応、リハビリテーション、トレーニング指導、障害予防、そのそれぞれに基盤となる知識が必要であることは言うまでもありません。
私自身は、理学療法士の免許を取得してリハビリテーションを学びましたが、学生のときに学んだ評価・統合と解釈・考察の立て方は、今でも大切にしています。
経験を積めば選手の動きや主訴から問題の答えを導くパターン認識と言われる方法を用いることが可能になってきます。
理学療法について学んだ方はこれを、動作分析から評価内容を導くトップダウンの評価方法と学んだかもしれません。
対して、学生の時の臨床実習などでは、すべての評価項目を網羅的に実施してその中から問題の答えを導いていく徹底的検討法といわれる方法をもちいた考察を指導されたのではないでしょうか。
これをボトムアップの評価方法と習ったかもしれません。
アスレティックトレーナーの評価においても、この手段はカリキュラムに組み込まれています。
いずれの場合においても、選手のエピソードの聴取(医療面接)、理学所見の収集、動作分析の過程を経て、その結果を統合して解釈し、考察をたてて介入する、ということを教えてもらいました。
臨床(スポーツ)現場に出るようになってからは、学生時代に行った関節可動域測定・徒手筋力測定法・整形外科的テスト法や各種タイトネスの評価方法などを組み合わせて使いながら、更に細かいアライメント評価やアライメントの修正によって疼痛が減弱するかどうかをみる疼痛減弱テスト・その反対に崩れた方向に誘導する形で疼痛が増悪するかを判定する疼痛増悪テストなどを用いて、より確証を得られる道筋を探します。
こうして得られた情報を用いて、選手の体に結果として現れている問題(痛み・主訴)とそれを引き起こしている要因(原因)を整理して結果として現れている問題を解決すると同時に(これをJARTAではファーストタッチの原則という形で説明しています)、原因因子に対してアプローチすることで、選手の主訴が本質的な解決を得られるよう導くための設計図をまず描くわけです。
このコンディショニングの「設計図」は、建設に必要な素材を集めて目の前に並べてみてはじめて実現可能なものになるわけです。
設計図があれば、組み立てる順番をどこで間違えたのか、パーツを取り違えたのはどの部分だったのか、介入がうまく行かなかったときにも立ち返る場所があります。
ところが、設計図を描かずに結果として現れている問題にアプローチして(とりあえず固まっている筋肉をほぐす、など)、痛み・硬さが取れなかった場合、またはその場では良い感触が得られても後に疼痛が増悪するなどの問題が生じたとき、その原因が何だったのかを追求することが困難になります。
因果応報、良い刺激が入れば人の体はそれに反応して良い結果に向かいます。逆もまた然りで、見当違いの刺激を入れることで、良くない反応を生み出すこともあるわけです。
そのときに、どのような評価に基づいてどのような推論を導いてその介入を行ったのか、が明らかになっていれば、道筋をたどって修正することができます。
推論という「設計図」なくしてパーツを組み立てていくのは、博打の要素をはらんでいるといえます。確率として極めて精度の高い推論を立てられるようにするために必要なことは、選手の話を引き出すための問診スキルを駆使してよく話を聞くこと、解剖・運動学などの基礎医学、理学所見のとり方を頭と体に染み込ませることです。
選手の心と体に生じたエピソードをしっかりと理解できていますか?
学校を卒業してから、ゴニオメーターを何回使いましたか?
スケールを用いた大腿周径は、誤差なく図れる検証をしていますか?
MMTの評価なしに「筋力低下」を判断していませんか?
医学の世界の評価方法は、先人たちが問題の原因にたどり着くために極めてシンプルに不要なことを削ぎ落としつつまとめてきてくれた体系です。
魔法のような治療法も、一瞬で結果が出る徒手療法も、すべては基本の上に成り立っています。
基本をおろそかにして、いつか魔法を手に入れることはできません。まずは各関節の正しいアライメント・挙動の理解、筋・筋膜・皮膚などの軟部組織特性、神経・血管の走行など構造の理解をもとに、適切な理学所見から問題の原因を説明できる推論をたてられるように訓練していくこと。
選手のコンディショニングを任される立場として最低限のたしなみをおろそかにすることのないよう、日々考えることの大切さを伝えたい。
JARTAのコンディショニングスキルコースでは「評価」の重要性をお伝えし、実際に受講者の方々とともに問題の原因を解決する手段を学んでいただきます。
また、新たに始まったオンラインカレッジにおいては、「臨床推論」という講義の中で、各関節の外傷・障害に対する考察の立て方をともに学んで頂くことができます。今一度、自身の介入を振り返り、基本的なことが網羅されているかどうか、不足しているとすれば何が足りていないのか、ともに学んでみませんか。
目の前の選手の問題を解決する手段に、「魔法」はありません。もし魔法を使うセラピストがいたとすれば、それは積み上げてきた「基本」に裏打ちされた確かなスキルにほかならないということを忘れないようにしましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
JARTA公式HP
https://jarta.jp