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2019年03月31日

その先へ行く為の柔軟性

文:岡元祐樹

 
身体が柔らかい = 怪我しにくい
 
このようなイメージを皆さんは持たれているのではないでしょうか。「だから柔軟性を高めよう」という選手や指導者は多いと思います。
 
一方、身体が硬くても怪我の少ない選手というのは存在します。またそういった選手は柔軟性を高めるトレーニングに対してやる気が出ない場合が多くあります。やらなくても怪我をしないのですから当然かもしれません。
 
今回の記事で伝えたいことは柔軟性の向上は単なる『怪我予防』ではなく、『競技力の向上』にも確実に役立つということです。
 
身体が柔らかい=競技で結果が出やすくなる
 
このようなイメージを定着させることで日々のストレッチやトレーニングを見直し、怪我をしにくく競技で結果を出せる身体へと近づいていきましょう。
 
 

身体が柔らかいだけでは柔軟性が高いとは言えない

 
まずここで『柔軟性』という言葉を整理しておきましょう。筆者が考える柔軟性とは『関節が使える幅』を意味します。ただ単に「立位体前屈で指先が地面に届く」というだけでは柔軟性が高いとは言えません。
 
競技において必要な柔軟性とは、様々な関節の角度で多様な動きができるということです。
逆に柔軟性が低いということは「限られた範囲での関節の角度でないと何もできない」という状態といえます。
 
具体例を挙げて説明すると『開脚』があります。
 

 
このように、座った状態で開脚できる範囲が広いことを「身体が柔らかい」「柔軟性が高い」という表現をすることがあります。
しかしこの状態になることが競技力に繋がる柔軟性なのかは少し考える必要があります。
 
 
次は体重のかかった状態での開脚です。
 

 
このように体重がかかった状態で開脚の形が保持できる。加えて上半身を自由に動かせる状態だとします。
このような開脚の方が実際の競技場面をイメージしやすいのではないでしょうか?
 
例えば野球の内野手が間を抜けそうなゴロを捕球するときや、バドミントンで落ち際のシャトルを目一杯手を伸ばして拾うときにこのような荷重位での開脚がしばしば見られます。
 
しかし一般的に柔軟性を高めるという名目で行われる開脚は、座って行う1つ目のストレッチの方がイメージされがちです。
 
同じ開脚でも「脚を開ききって終わり」なのか「脚を開いてさらに次の動きに移行していく」のかで意味合いが変わってきます。どちらが正解などはありませんが、競技や目的によって必要な柔軟性というものを考える必要があります。
 
 

立ち上がりからのダッシュを例にして柔軟性を考える

 
今年行われた男子サッカーアジアカップ準決勝の日本vsイラン戦。日本の先制点のきっかけになったのは南野拓実選手の『素早い立ち上がり』でした。
 
ドリブル突破をしかける南野選手が転倒し、ファウルでプレーが止まると思われた場面。
しかしプレーは続行されており、いち早くそのことに気付いた南野選手はすぐさま立ち上がってボールを追いかけました。
 
このような立ち上がりから素早く動き出す場面で『股関節の柔軟性』が重要になってきます。
 
通常の走行では体幹はほぼ垂直位であることが多く、股関節はあまり深く曲がる必要はありません。
 

 
しかしうつ伏せの姿勢から立ち上がって走りだす場合、最初の数歩は体幹前傾位を取ることになります。股関節をより深く曲げた位置から後ろへ蹴っていく動作になるのです。
 

 
この時股関節を深く曲げられないもしくは深く曲げた状態から後ろへ蹴れない状態、すなわち股関節の柔軟性が低い状態だったとしたらどうでしょう?
 
なんとか地面を蹴ろうと、その分腰を浮かして対応することになります。この腰を浮かす時間がロスとなって次のプレーへの移行が遅れてしまいます。
 

 

 
 
このような動きでは「股関節を深く曲げて、そこから後方に力強く脚を伸ばせる」ことがより早く動き出すために必要になってきます。
 
この例は股関節の前後方向(屈曲~伸展)の動きのみの説明になります。
股関節にはその他に横方向に開いたり閉じたり(外転~内転)する動きや捻る(外旋~内旋)動きがあり、これらの動きが複雑に絡み合い、多様な動きを実現しています。
 
関節の使える幅をしっかりと確保していく。つまり柔軟性を高めるということは競技力の向上に確実に役立つと言える理由です。
 
素早く立ち上がれない。ぶつかられると簡単に体勢が崩れてしまう。怪我が多い。
 
そういった選手は筋力の問題だけでなく、競技に必要な多様な動きができる柔軟性が獲得できていないのかもしれません。
 
 

もう1つ上のレベルでプレーするために

 
「柔軟性を高めたい」
 
多くの選手・指導者が想っていることだと思います。
 
柔軟性を怪我予防という目的のみで高めようとする場合、関節の動く範囲を拡げようというストレッチが主な手段になりがちです。
座ったままの開脚を例に挙げると、一見開脚は十分に開くことができても股関節周囲の怪我が多いという選手はいくらでもいます。
 
そのため競技特性や自身の得意・不得意なプレーを考慮し、必要な動き作りをしていく必要があります。
 
柔軟性を高めるための要素の1つに静的に筋肉を伸ばすストレッチがあり、確かに怪我を予防する効果も期待できます。
 
しかしそれのみで満足せず、柔軟性というものをもっと広い意味で、競技力の向上に役立つものとして捉えることをお勧めします。
競技力の向上のつもりでやっていたが、結果的に怪我も予防できていたということに繋がるはずです。
 
現段階で怪我が少なくとも、もう1つ上の学年、もう1つ上のカテゴリー、もう1つ上のリーグでプレーすることをビジョンとして描くのであれば、この柔軟性の意味を理解し高めておいて損はないはずです。
 
最高のプレーヤーを目指して。
 
お読みいただきありがとうございました。
 

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