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2019年12月09日
「〇〇を意識する」がパフォーマンスにどう影響するか
文:伊東尚孝
「〇〇を意識して」
トレーニングを行う際に一度は耳にしたことがあるフレーズです。
動きの質を高めようとする際に用いられることが多く、身体のある部位に意識を向けながらトレーニングを行います。
例えば、
「野球は下半身が大事だから、股関節を意識して動け」
と言った具合です。
その選手もしくはチームの動きに股関節の要素が不足しているのなら、「股関節を意識する」ようなトレーニングはパフォーマンスアップにつながる可能性はあります。
しかし一方で、
「意識することが難しい」
「練習で意識できても試合中はできない」
「なんで意識しないといけないのか」
という印象を持つ選手もいると思います。
一つひとつ丁寧に解説しながら指導できればいいですが、
限られた練習時間を有効に使うためにも、特に集団トレーニングであれば一人一人に時間を割いてしまうことは避けたいと思います。
時間を有効に使いつつ、動きの質を高めるための「意識」をどのように選手へ伝えるべきでしょうか。
私の実際の経験をもとに、一つの手段を述べていきます。
指導する際、またはご自身のトレーニングにも参考になれば幸いです。
意識することの弊害
ある部分を意識しながらトレーニングすることは、動きの質を高めより動きやすくするための手段として効果的です。
しかし、意識すること全てが良い訳ではありません。
意識することの弊害も考慮しておく必要があります。
例えば、脊柱の動きにフォーカスを当てたトレーニングを行うとしましょう。
事前に脊柱の柔軟性を上げるトレーニングを行い、できる限り脊柱を分離できるように準備します。
その後は徐々にトレーニングの構造を複雑にしていき、最終的には競技レベルの動きで脊柱の動きを意識しながらトレーニングを行います。
「最初に動かした背骨の動きを意識しながら」というコマンドを入れながら。
しかし、最初は意識できていた脊柱の動きは雑になっていき、競技レベルのトレーニングになるにつれて選手の頭の中が混乱している様子でした。
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試合中の動きは、多様性のある連続した動きであることが多いです。
競技レベルの動きに近いトレーニングも、必然的に複雑な動きが連動していきます。
複雑な動きをしながら脊柱に意識を向け続けるように指導していると、かえって動きが硬くぎこちなくなるリスクがあります。
なぜなら、競技レベル動きのほとんどは「自動化」されており、身体の部位を意識しながら動くことがほぼないからです。
意識しながら動くことを例えるなら、全力でダッシュする時に身体の全ての関節がどのように動いているかを把握しようとする状態とも言えます。
さらに競技にも対戦相手にも集中して、、、
となると、自分の身体を意識し続けながらプレーすることは不可能に近いと思います。
***
そのリスクを最小限にしようと、あくまで「脊柱の動き」をベースにトレーニングして、意識の数を最小限にとどめようと試みました。
トップ選手の動画を確認し、また体性感覚の刺激が入力されやすいように脊柱を段階付けて分離させるトレーニングなども行いました。
それでも、獲得すべき動きまでには到達できませんでした。
“選手に伸びしろとなる部位を「意識させる」ことは必要。
でも「意識させる」ことで動きはぎこちなくなる。“
ここで悩んだ私は「意識する方法」を大きく変更しました。
意識させないという選択
上記でも述べたように、競技での動きはほぼ「自動化」されています。
そもそも「意識する」ことが動きを制限しているのではないかと考えます。
そのため「意識する」というコマンドを一切入れないようにしました。
考え方は単純で、「意識しにくいのであれば意識しなくても良い」
という思考に変換したのです。
「背骨を動かす意識」から、「この動きをすれば勝手に背骨が動いてる」
というトレーニングの構成に変更し、ひたすらそれを繰り返しました。
それと同時に、動かしたい部位のポイントを決めて「触る」方法も加えました。
今回の事例の選手は、どの動作においても胸を張りすぎる傾向にありました。
そこで、「みぞおちを触って柔らかくなるように」というコマンドに切り替えました。
動かしたい(意識させたい)のは脊柱ですが、みぞおちを触ることで結果的に脊柱にアプローチできているようにしました。
「意識する」というコマンドが余計な思考を与えることとなり、結果的に動きを制限することとなる可能性があると考えます。
そのため選手には「触って、繰り返す」トレーニングを行ってもらい、余計な思考が入ってこないように設定しました。
まとめると、
◯特定の部位を「意識しながら」トレーニングをし続けると、競技レベルのトレーニングでパフォーマンスが下がる可能性がある。
なぜなら、競技レベルの動きはほぼ「自動化」されているから。
◯特定の部位が結果的に動いているようなトレーニングの構成では、余計な思考を与えず獲得したい動きを高めることができる。
すなわち「自動化」に近い動きの学習ができる。
ということになります。
「意識することが難しい」
「練習で意識できても試合中はできない」
「なんで意識しないといけないのか」
これらの声は、トレーニング中に「意識する」というコマンドを入れ続けてしまったが故に生じたものだと考えます。
まとめ
今回の内容は全ての選手に当てはまるものではなく、私が関わる選手に当てはまる手段の一つにすぎません。
中には「意識する」トレーニングでパフォーマンスアップする選手も大勢いるでしょう。
つまり、「意識する」「意識させない」のどちらが正しいかではなく
目の前の選手に対して、どのように伝えるべきかを見極める必要があります。
トレーニングの質を高めるということは、今までの動きのパターンを変えようとしているとも言えます。
動きのパターンとは動きのクセでもあるため、一朝一夕で獲得できるものではありません。
しかし、継続すればパフォーマンスを上げることが可能になります。
いずれにせよ、トレーニングは継続しなければ効果は得られないということです。
パフォーマンスアップのためにトレーニングを継続し努力するのは選手自身です。
しかし我々がトレーニングの方向性を誤ってしまうと、選手が努力する方向性を誤ってしまう可能性があります。
それにより選手のパフォーマンスを下げてしまうことは、容易に想像できると思います。
ちょっとした言葉の選択やトレーニングの構成によって、選手のパフォーマンスに大きく影響することを、改めて考えてみてはいかがでしょうか。
また今回の事例がパフォーマンスアップのヒントになれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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