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2020年04月21日

体力づくりのトレーニング

文:宮﨑祐一

「体力づくりのトレーニング」としてみなさんは何を思い浮かべますか? スポーツをしてきた方なら誰でも一度は取り組んだことがあるのが、 ”走り込み” ではないでしょうか。 
走り込みは、体力づくりの基礎トレーニングと認識され
・自分を限界まで追い込む
・きついときに耐える精神力をつける
・試合の時これだけやってきたという自信をつける などが挙げられると思います。 
 
今日は体力づくりのトレーニングの考え方を見直し、走り込みを例に挙げて一緒に整理し たいと思います。 
まず走り込みの効果は簡単に思いつくと思います。
先ほども述べたように、体力向上、足腰の強化、精神力強化などがあります。
肉体的にも 精神的にも鍛える方法として、昔から重要とされてきた練習の一つです。 
どれも間違いではありません。 ただし、やり方を誤ってしまうと逆にパフォーマンスを下げる要因になることがありま す。 
どんな要因があるのかをしっかりと認識した上で、トレーニングへの取り入れ方を見直す必要があります。 

 
 
走り込み の効果と注意点を整理していきます。
 
効果は以下のようなものが挙げられます。
・心肺機能の向上 (最大酸素摂取量の向上、四肢の毛細血管が増える)
・ BDNF(脳由来神経栄養因子)が出る 
・上半身と下半身の連動
・身体バランス能力の向上
(足底への刺激、山道などの悪路を走るなど)
・身体と視界の変化を知覚し、身体と環境の距離感をより正確に捉える
・結果が見えやすく達成感がある(距離数など) 
もちろん良いこともたくさんあります。
 
これは周知の事実として、ここでは注意点について 
もう少し深くお話していきます。 
 
注意点として考えるべきことは大きく分けて2つです。
・身体への負担が増大する
・競技によって必要な体力の種類が異なる 
 
 

1. 身体への負担が増大する 

負担の増大というと、一見、それを繰り返して体力をつけるのだから当然だと思われるかもしれません。
でも見逃すと、大きなパフォーマンス低下や選手生命に 関わる事態につながる場合もあります。 
走り込みの際、硬い地面を蹴るように走ると、同じ部分に繰り返しストレスをかけること になり、膝や腰などの荷重関節への負担が大きくなります。
これはケガのリスクが高まります。 
走り込みの最中でなくても、負担が蓄積した状態で、 競技中に過度なストレスがかかることで致命的なケガにつながるリスクさえあります。 
また循環器系の問題として、心拍数が上昇しすぎると、内臓への血流量が低下します。
それにより消化不良や、排泄コントロールがうまくいかなくなるなどの腎機能低下を引き起こすこともあります。 
これは栄養状態の悪化や休息時の回復力低下にもつながるでしょう。
さらにアスファルトを走るなどの「足裏への反復衝撃」によるヘモグロビンの破壊(溶血)からスポーツ貧血という症状もあります。 
ヘモグロビンの役割は取り込んだ酸素を全身に運搬することです。
運動に必要なエネルギーを生み出すためには酸素が必要であるため、これが十分に供給されない状態になる と、パフォーマンス低下に直接的に繋がります。 
これらをふまえて、走り込みを行うには、必要なトレーニング方法を見極める必要があります。 
できれば関節負担を減らすために、アスファルトではなく土や芝生の上で行うことが望ましいです。 
より良いのは、山道などの路面が常に変化する環境で 走り込みを行うのも効果的です。環境変化に柔軟に適応でき、バランス能力を向上することにもつながります。 
走り込みの最中だけでなく、選手の疲労の回復の状態や集中力、競技中とそれ以外のパ フォーマンスの変化などにも細やかなチェックが必要になってきます。 
 

 

2. 競技によって必要な体力の種類が異なる 

走り込みで体力をつけると言っても、そもそも競技によって必要な体力は異なります。
特に対人スポーツでは、「一定のペースで長い時間繰り返す動き」というのはあまりありません。
スピードやパワーを要求される競技であれば、マイナスの学習となってしまうこともあり ます。 
では、競技によってどのような体力が必要となるか考えていきたいと思います。 
ここで今回のテーマである ”体力づくりのトレーニング” について捉えやすい方程式をご 紹介します。
「体力=容量×省エネ×回復力」 
 
選手に必要とされる体力とは、ただ心肺機能が高いだけではなく、効率良く省エネで動ける身体と、回復力が大切になります。
つまり試合当日、全力を出す瞬間とそれ以外の時間をどのように使い分けられる必要があります。
いかに短時間で回復し、再度全力が発揮できるパフォーマンスができるかが重要なのです。 
これを練習中から意識していく必要があります。
ただひたすら走り込むだけでは、心肺機能は向上できるかもしれませんが、全力発揮と回復の切り替えがうまくコントロールできません。 
クールダウンや練習中の合間時間をどう過ごすかも重要になってきます。 
 
 
例えば、プロ野球の投手で具体的に考えてみます。
NPBの先発投手は1イニング当たり15~17球を費やします。
一般的には、1回15球、6回90 球で替え時と計算されています。 
試合中に筋力を発揮しているのは、主に90~100球の投球時と守備機会の数回です。
攻撃時にはベンチで座っている時間もあり、次のイニングに備えてキャッチボールをするなど、過ごし方は様々です。 
野球選手に必要な体力は、マラソン選手のように数時間ずっと動き続ける体力ではありません。 
その代わりに「90~100回の投球を全力で、相手に合わせて変化させて投げ、打ち取るための体力」が必要ということになります。 
この場合の”走り込み”トレーニングのより良い方法が、何時間も走り続けることではないことはもう分かるでしょう。 
 
 
ではどうすれば良いのか。
例えば、インターバルを意識したトレーニングにより、パフォーマンスの持続能力の向上に繋がります。 
短距離のダッシュ+インターバル時間をコントロールします。
・30m ダッシュを20本 で休憩時間20秒
・200mダッシュを3本 で休憩時間 3分 など 
これらの組み合わせを変えた練習を取り入れることで、様々なタイミングで全力発揮と回復の切り替えができるようになります。
持続的にパフォーマンスの高い状態を保てる選 手を目指すことができるのです。 
 
このように、競技やポジションなどにより、選手に求められる体力や能力も異なります。 
 
ここまで述べたように、体力づくりのトレーニングにはいくつか注意点があります。それらを考慮した上で、選手にとって最も必要な「体力」は何か考えていく必要があります。 
トレーナーは、限られた時間を効率よく使えるトレーニングを提案し、試合で最高のパ フォーマンスを発揮させることが求められています。
選手の努力を無駄にしないためにも、努力すべき方向性をしっかりと見据えて、試合で最大限の力を発揮できるためのトレーニングを組み立てましょう。 
 
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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