立甲を使った究極の打拳

JARTA認定講師の鳴海裕平です。以前大腰筋や股関節の抜き・ナンバ歩きの内容についての記事を投稿させて頂きました。

今回の内容は前回からの続きになります。

立甲を使った究極の打拳というテーマで、一見走りとは関係ないように思われるかもしれませんが、この内容は走りの際の上体の使い方に深く関係します。回りくどいように思われるかもしれませんが、最後までおつきあいいただければと思います。

 

“究極の打拳”の条件

さて、どのような条件を満たせば“究極の打拳”といえるでしょうか?よくボクシングなどでは対戦相手を即ノックアウトする威力・スピードを秘めた拳のことを“神の拳”“神の左”と形容します。

(ACより転載. https://www.photo-ac.com/user/home/

 

優れた打拳の質というところで考えると、おおよその意見としては

☑打撃の相手に与えるダメージに関係する拳の“重さ”がある。

☑相手が動作の起こりを読めないほどの“ノーモーション”

☑目にもとまらぬ腕の振りの“速さ”(ハンドスピードの速さ)

☑しかも腕の速さは初速から即トップスピードになる“早さがある。

☑予想した間合いよりも遠くから打撃が届いてしまう“ノビ”がある。

☑正確に目標を射貫く打撃の“コントロール”が備わっている。

というところになるのではないでしょうか。

 

これらを満たすには立甲の使い方が重要になってきます。

立甲については過去の記事をご参照ください⇒URL:【https://jarta.jp/training/954/

 

拳の重さとエネルギー

拳の重さは“腰が入っている”“体重が乗っている”などのコツとなる言葉がありますが、その目的は目標物に向けて打拳を打ち出し、

目標物と衝突した際により多いエネルギー量を伝えるということです。

 

実は腕を前方へ伸ばすという動作において、腕を伸ばしきり目標物に衝突した際には

その運動エネルギーは最小となっています

これは腕を伸ばすという目的のためのエネルギーですので

腕を伸ばしきった際には運動エネルギーが0になるからです

(*正確には運動エネルギーが全て位置エネルギーに変換されることになります。)

 

では腕が曲がっていればよいかというと、

今度は目標に向けての距離が短すぎると獲得する運動エネルギーが少ないです。

そのため運動エネルギーが最大になるのは腕を伸ばしきる少し手前になります。

▼写真1:

(腕を伸ばした時、三角形頂点②の距離の時が最大の運動エネルギーです。)

(①は腕を伸ばしきったとき、③は腕を伸ばす前でどちらも伸ばしきる直前より運動エネルギーが少なくなります。)

 

つまりは目標物により多くの運動エネルギーを伝えるためには、

腕が伸びきってしまうと運動エネルギーがなくなってしまうため、

腕が伸びきらず、曲がっている状態で目標物と衝突しなければならないとなります。

 

しかしながらこれでは、効果的な打拳を当てるには、有効な間合いが極端に狭く、

しかも目標物に多くのエネルギーを伝えているとは言えません。

 

目標とするべき打拳は、

腕を伸ばしきって衝突した際にも運動エネルギーが消失していない状態です。

ではどうしたら良いのか?

そこで立甲の出番です。次の動画をご覧ください。

【動画① 立甲使用時の拳の重さ】

通常の打拳よりも立甲を使用している方が目標物に強い衝撃を与えられていることと、

腕を伸ばしきったところでは運動エネルギーが0になっているところでも、

目標物に衝撃を与えることができているのがわかると思います。

 

習得した立甲をどう使うか

とはいってもこの動画では立甲したまま打拳を放っているわけではありません。

立甲していてもそのまま腕を伸ばすだけでは目標物に到達する頃には、

運動エネルギーが減少します。

 

つまり今回の内容は立甲を習得するための内容でなく、

習得した立甲を具体的にどう使うのかという内容です。

では立甲をどう使用したらよいのか?

動画にある数センチの距離からの打拳の写真を用いてご説明致します。

下図の写真2・3をご覧ください。

 

▼写真2

 

立甲を使用している場合には

肩甲骨が下制・上腕が外旋することで肩甲骨が後方に引かれる力が発生します。

この肩甲骨の後方に引かれる力を脱力することで解放します。

 

▼写真3

 

すると脱力に伴い、肩甲骨が後方に引かれる力の反動により

肩甲骨が前方への加速された状態で前に出ます。

立甲はゼロポジション、つまり肩甲骨面と上腕骨の長軸が一致するため

肩甲骨で解放された力はそのまま上腕骨を伝わり、拳に効率よく伝わっていきます。

 

そのため、このときの運動エネルギーは立甲で蓄えていた力を解放した結果、

右手の拳に運動エネルギーが生じるとなります。

この場合では腕が伸びきっていても、立甲からの脱力を利用した加速があるため、

運動エネルギーが消失しません。

 

 

立甲を使用した打拳のメリットは数多くあります。

・通常の打拳よりも拳は重くなる。

・通常の運動方式とは異なる打拳のためモーションが察知されづらい

・反動を利用しているため脱力した瞬間にすでに加速が完了しており初速が早い

・初速に合わせてハンドスピードもはやくなる

・脱力からの打拳のため、肩甲帯周囲の余分な緊張が抜け、より前方へ肩甲帯が

引き出される分、通常よりも間合いが広くなり、ノビが出る

・加速されている分上肢の重さが軽減され、打拳がコントロールしやすくなる

(*例えば、ペダルの重たい自転車をいきなり力を入れてこぐと、

左右にふらつきコントロールできない。しかし、後ろから押してもらって

加速された状態では左右へのふらつきも少なくなり安定してコントロールできる)

 

もちろん今回の内容に加えてさらに打拳を強力にするための

下半身の脱力や股関節の捉え、インパクトの瞬間の関節の一体化など、

打拳には様々なコツがあります。

 

ただ、今回の立甲を利用した打拳ができていなければインパクトの瞬間に

運動エネルギーが0になり、どんな工夫も全く意味がない状態になりかねません。

そういった意味では一番重要とも言えるポイントなのではないかと思います。

 

 

そしてこの打拳の際に使用された立甲の動きは走る際の上体の動きにも転用できます。立甲からの脱力を利用した腕の振りは、走りにおいて円滑な重心移動や驚異的なスピードアップ、ストライドの大きさに強く関与します。

 

次回以降には話を戻して、今回の内容を踏まえた走る際の上体の動きについて

お話させていただこうと思います。

 

長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

 

JARTA公式HP

https://jarta.jp