スポーツトレーナーが上級者になっていくには?

文:岡元祐樹

 

 

ここ数年、インターネット等から簡単に情報にアクセスできるようになりました。

 

スポーツトレーナーとして必要な情報や知識もたくさん世に出ています。

 

それらは時に魅力的に見え「もっと知りたい」「もっと学びたい」と想わせるものも多くあります。

 

そうやって得た知識や技術を現場に持ち込み、上手く生かせたのであればそれはそれで素晴らしいことです。しかし上手くいかないことも多々出てくると筆者は経験上感じています。

 

新しく得た知識や技術というものは実用的で即使えるものもありますが、その一方汎用性が乏しくなることがあります。

 

言い換えると、パターンがしっかり当てはまれば効果を発揮するが、少しでもパターンからズレると対応できなくなるということです。

 

例えば「セミナーで習った肘の痛みが取れる施術をやっているのに、選手の肘の痛みが取れない」などが挙げられます。

 

このような事象には土台となる知識が抜け落ちている可能性が高いです。

 

そしてこのような時は原点となる『基礎的な知識』に戻る必要性があります。

 

『戻る』と言うと日本語的には後退するイメージがあると思います。しかし基礎に立ち返りながら新たな知識や技術を習得していくことは、スポーツでも勉強でも大事な上級者への道のりです。

 

 

【成功でも失敗でも感じる基礎の大切さ】

 

スポーツトレーナーとして目の前の選手に対応する際、基礎的な知識が重要であることは言うまでもありません。

 

先日、肘の痛みを訴えるバドミントン選手にその相談を受けました。

 

疼痛があるのはラケットを持つ利き手側である右肘の外側。上腕骨の外側上顆の部分です。手のグリップ動作でその部位に痛みが生じ、ラケットが強く握れずプレーできない状態でした。

 

勘のいい方であればこれは上腕骨外側上顆炎、通称テニス肘ではないかと推察できると思います。

 

しかしこの選手は病院を受診しておらず、そのような診断を受けた訳ではないので、筆者は現状で生じている現象だけを評価していきました。

 

・疼痛の既往

 

・上腕骨外側上顆の疼痛検査

 

・肘関節のアライメント評価

 

これらを聴取、評価して患部の状態を把握しました。

 

そして今回の疼痛が発生する要因を

 

・バドミントンの競技特性

 

・日常生活のパターン

 

・患部以外の手関節、肩関節、肩甲胸郭関節の評価

 

から推察し、それらを改善するセルフケアを指導しました。

 

これらはテニス肘のリハビリテーションの流れとしては教科書的な内容です。

 

しかしこれらが解剖学、運動学、生理学、バドミントンの競技特性、日常生活動作といった基礎的な知識を把握していれば、例えテニス肘という現象を知らなくても対応できることが分かると思います。

※もちろん知っていることにこしたことはありません。

 

テニス肘のリハビリテーションの知識を丸暗記して選手に対応するのと、土台となる多くの知識を統合しながら評価を進め「テニス肘に似ているかもしれないな」と対応するのとでは大きな違いがあります。

 

前者は学生で言うところのテスト前の一夜漬け状態です。丸暗記したこと以外は対応できません。後者はテスト当日に急にトリッキーな応用問題が出題されても対応できるタイプです。

 

筆者は学生時代はどちらかというと前者のタイプでしたが、今回の選手は後者的な対応を心がけ、公式戦に出場できるくらいには回復することができました。

 

 

 

同じように、失敗談もあります。

 

「股関節を曲げると鼠径部が詰まる感じがするから解消してほしい」

 

スポーツ選手のコンディショニングをする機会が多いと、この要望をよく言われることがあります。

 

そしてそれを解決してあげられなかったことが多々あります。

 

この鼠径部の詰まり感は、股関節を屈曲し骨盤の前傾により基本姿勢を取るような競技では競技動作の阻害因子になることがあります。要するにパフォーマンスの低下を招く可能性があるということです。

 

この症状を軽減するための方策はいくつもありますが、同時に症状の原因も多岐にわたります。ここで手技に走り、症状が出るに至った経緯や現状の評価が疎かになると症状は解消できません。

 

選手もトレーナーもモヤモヤしたままコンディショニングの時間が終わってしまいます。

 

 

 

【教科書は臨床に即さない?】

 

このような消化不良を起こさず、選手の課題に向き合い、解決するにはどうすればいいのでしょうか?

 

筆者は「自分の得た知識や技術を基礎的な部分まで分解し理解し直す」ことが近道ではないかと考えています。

 

理解していることの最低条件の1つとして『他者への説明がスムーズにできるか?』というのが大事であると筆者は考えます。

 

ここで言う『スムーズに』とは、言葉に詰まることなく、説明の対象となる相手が納得してくれるかということです。加えて、想定される質問に論理的に答えられることも含まれます。

 

そしてそれは必ずしも他者が必要という訳ではなく、シミュレーションでもある程度は可能になります。

 

新しいトレーニングを選手やチームに導入をする場面を頭の中で想定してみてください。その想定の中で、選手に動きや効果を説明し納得してもらえるか?どのような質問がくるか?それに答えるにはどのような知識が必要か?を考えます。

 

そして言葉に詰まる場面や答えに困る質問を発見し、解決していくのです。そしてそれらを解決していくために基礎的な知識が必要になってくるのです。

 

 

 

理学療法士でもある筆者は昔、解剖学や運動学のいわゆる教科書というものが「臨床に即していない」という思いがありました。

 

その教科書の文面を理解してテストで点が取れても、目の前の選手や患者に対応できないことが多かったからです。

 

その結果、施術のテクニックだけを学びを進めていた時期がありました。

 

しかしそれもすぐに限界がきます。

 

今スタンダードになっていたり、注目されている知識や技術はその土台に多くの基礎知識や基礎研究があります。

 

例えば股関節に対する施術であれば、股関節の構造、周辺の組織、運動学的な役割、生理学的な筋の変性など挙げればきりがありません。

 

その中から自分の知識が不足している部分を埋めていく作業をしなければ、その施術は効果を発揮しません。効果が発揮されないだけならまだしも、何故効果が出ないのか?という考察も不十分になります。これではトレーナーとして成長は限定的になります。

 

そしてそれは選手に対して、他の有効な方策を講じることができなくなってしまうという状態に繋がります。問題解決に必要な引き出しが少ない状態ということです。

 

様々な情報が受け取れるようになった今。自分の専門分野においては足りない、もしくは忘れてしまった基礎知識を確認する作業も重要になっていると感じます。

 

それができると元々持っていた、あるいは新しく得た知識や技術に汎用性が生まれます。

 

新しい知識や技術に出会った時、その本質や実態を正確に認識するために教科書(基礎)があるのです。

 

 

 

【一段跳ばしは遠回り】

 

できている。わかっている。理解している。大丈夫。

 

知らず知らずのうちにそのように思っている事象は数多くあります。そしてそれが落とし穴になってしまうパターンも数多くあります。

 

学生時代にテストでなんとなく点が取れていた筆者のようなタイプは、それを自覚し勉強方法から根本的に考えないといけないと感じました。

 

上級者への階段を昇っていくには、上ばかり見るのではなく、今までの道のりの再確認や振り返ることによる再発見も必要になるのではないでしょうか。

 

そしてそれは手間や時間がかかることです。どうやってその時間を捻出すればいいのか?

 

筆者と同様にそのような想いを抱いている方は少なくないと思います。工夫していくしかありません。

 

一段跳ばしばかりしていると、逆に遠回りになるかもしれないから。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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