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2019年06月30日

大事な試合だからこそパフォーマンスより優先される2つのモノ

文:鳴海裕平

 
気温も30度を超える季節がやってきて、多くの競技で試合のシーズンが始まっています。
 
選手に今までトレーニングをやってきた成果を発揮し、
試合で良い結果を出してもらいたいと、
共にやってきたトレーナーはそう思っているでしょう。
 
トレーナーは選手に最良のパフォーマンスを提供出来るよう、
トレーニングを含めたサポートをしていきます。
ではトレーナーはパフォーマンスのことだけを考えて
選手と共に試合にのぞめば良いのでしょうか?
 
いいえ、違います。
 
実際にはそれよりも大事なモノが“2つ”あります。
では試合に臨むにあたり、トレーナーがパフォーマンスより
大事にするべきモノとは一体何なのでしょうか?
 

第一に大事なモノは選手の【命】


 
仮定の話をしましょう。
あなたが普段から診ている選手が試合に出ていて、試合中に倒れたとします。
意識がなく、呼吸も止まり、心停止している。
そうなると救命措置が始まり、応援や救急車を要請し、AEDを持ってくる。
 
そのとき、あなたは会場のどこにAEDがあるか把握していますか?
そのとき、把握している自分を想像できますか?
 
選手には『結果を出せるなら死んでもかまわない』と思って
試合に臨む方もいらっしゃいますが、
トレーナーが『結果をだせるなら選手が死んでもかまわない』と
思っていてはいけません。
 
私自身、遠征先で練習中に急に倒れた選手に遭遇したことがあり、
救命救急措置の際にAEDの置いてある場所を周囲にいた人に指示しました。
そのときは事前に把握していて本当に良かったと心から思いました。
 
『AEDを持ってきて下さい。でも私はどこにAEDがあるのか知りません。
 あなた探してもってきて下さい。』などという命がかかった緊急時に、
医療従事者として恥ずかしい行為をせずにすみました。
実際、探してもらっている時間すら惜しいのですから。
 
パフォーマンスが大事なのは当たり前として、
緊急時のシミュレーションは必ずするべきです。
 
もちろんテーピングやコールドスプレーなど
処置に必要なメディカルバッグを事前に用意することもそうですが、
試合の会場についたら最低限AEDがどこにあるのかは把握しておきましょう。
*もちろん事前に会場のホームページなどで確認できれば、なお良いでしょう。
 
当たり前のことですが命よりも大事な事はありません。
では命の次に大事なモノは何でしょうか?
 

第二に大事なモノは選手生命

接触時の事故による怪我による選手生命の危機もそうですが、
私がここで言いたいのは“薬物”です。

 
市町村レベルの競技ではドーピングなどの検査は基本的にはありませんが、
国内大会でも国体になると検査がありますし、
国際試合になるとない方がおかしいと言っていいほど検査があります。
 
薬物を使用した選手はどんなに良い結果を残したとしても、
その称号を剥奪され、個人の名誉を深く貶めることになりますし、
社会的にも多くの弊害や迫害を受けます。
もちろん禁止薬物は使用しないよう厳重に選手に指導しておく必要はありますが、
問題は“禁止薬物を他者から混入させられる”場合です。
 
選手を貶めようとする他者が存在する場合も想定しなければいけません。
選手が頑張って良い結果を出したにもかかわらず、
他者からの行為によって称号も名誉も傷つけられ
選手の心は深く傷つき、失意のまま引退するケースもあります。
 
特に禁止薬物を他者から混入させられた場合、
身の潔白を証明することは大変困難です。
 
2018年1月に起きたカヌー・スプリント競技では他者への禁止薬物の混入が起こり、
入れられた選手はドーピング検査陽性で資格停止処分となりました。
この後、加害者が自白したことで資格停止処分は取り消されましたが、
このように身の潔白を晴らせるケースというのはほとんどありません。
 
私は大きい大会になるほど、選手には
一度開封したのち、目を離したドリンクボトルからは決して水分補給しない
ということを伝えさせて頂いています。
 
薬物は選手が使うことに注意することはもちろんですが、それ以上に
“誰かに使われる”ことを念頭に置いて考えるべきです。
“きっと大丈夫”という安易な考えが選手生命にとって致命傷になる場合があるからです。
 

トレーナーは二つの命を守る。

選手自身の命と選手生命を両方守らなければいけません。
もちろんトレーナーだけは難しい場合もありますので、
監督やコーチ、医師などと連携して選手を守ることが必要です。
 
試合が多くなるシーズンでどうしても選手のみならず
チーム全体でも試合に目が向きがちですが、
30度を超える時期では熱中症を中心に危険な状況に陥るケースは多くあります。
 
“結果が全て、全力のパフォーマンスを発揮すれば良いだけ”
と考えるのは選手に任せましょう。
 
トレーナーは結果だけでなく、パフォーマンスだけでなく、
選手が不幸になることがないよう、様々なことに気を遣いましょう。
 
全てはパフォーマンスのために、
ですがパフォーマンスに囚われることがありませんように。
 
最後までお読み頂きありがとうございました。

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