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2020年03月19日
基礎ってどこから?
文:岡元祐樹
「基礎的なトレーニングから始めていこう」
チームにおいて集団のトレーニング指導を開始していく際、そのように考えるスポーツトレーナー(以下トレーナー)は多いと思います。
いきなり複雑なトレーニングから始めると、難易度が高過ぎて選手の気持ちが乗ってこない、嫌になってしまうというリスクが容易に想像できるからです。
そういったリスクを考え、自分の考える基礎的なトレーニングを実施するのですが、それでも選手個人個人のレベルの違いを感じることがあります。
選手によって『できる』『できない』にばらつきがあるということです。
トレーニングの難易度をどれくらいに設定すればいいのか?レベルの高い選手に合わせるのか?低い選手に合わせるのか?悩むこともあると思います。
ここで注意したいのが冒頭に出てきた『基礎』という言葉です。
自分が考える基礎。選手が考える基礎。あなたが考える基礎。実は全て違うものになってしまうリスクがあるからです。
個々の捉え方が曖昧なままで「基礎的なトレーニングをやる」とアナウンスしてトレーニングを行った場合、選手によっては「基礎だから簡単すぎる。つまらない。」もしくは「基礎なのに難しすぎる。自信がなくなってしまう。」という心象を与えてしまうかもしれません。
このような事態はどちらもトレーニングへのモチベーションの低下を招いてしまうかもしれません。基礎という言葉の持つイメージを共有する必用があります。
今回の記事は、何気なく使う『基礎』という言葉を、しっかりと意図的に使うきっかけにしていただけるよう書き進めていきたいと思います。
基礎とは土台のこと?
基礎が大事。基礎を固める。基礎的な練習。
このように使われる基礎という言葉。辞書的には「ある物事を成り立たせる大もとの部分」という意味を持っています。
こう書くと、自分が頻繁に使う言葉であるにも関わらず、ものすごく抽象的であることに気付かされます。
繰り返しになりますが、抽象的ということは受け手によって解釈がばらつくというリスクがあります。
その結果、基礎的なトレーニングというのは競技や世代を問わずバラバラです。
例えば野球であれば素振りやシャドウピッチングを基礎と言うかもしれません。柔道であれば受け身、サッカーであればインサイドパスなどが基礎であるかもしれません。いやいや、その動きを可能にする筋力や柔軟性こそが基礎だと言う方もいるでしょう。
基礎という言葉をどう定義し、共有するか?
ここからは理学療法士でもある筆者個人の考えであり、定義付けでもあります。それを前提に読み進めて下さい。
基礎という言葉には建築用語として「建造物の荷重を支持し、地盤に伝える最下部の構造物」という意味もあります。
そのような観点から考えると、基礎というのは「身体の構造そのもの」と言えます。身体の構造という基礎ができていて、そこからその構造が機能を発揮し、動きに繋がっていきます。
例えば各関節の構造です。体重を支持する際の支持機構はしっかり働いているのか?動かす際はその動きを阻害する因子はないのか?
プロとして活躍するアスリートであっても、それら全てが完璧に備わっている選手というのは少ないです。子供だから柔軟性は問題ないということもありません。
そのことを前提に『基礎的なトレーニング』という言葉を使うのであれば、それは身体の構造を可能な限り正常化していくための取り組みということになります。
このように選手に説明できれば、前述した「基礎だから簡単、もしくは基礎なのに難しい」などのネガティブな心象をポジティブなものに変えられるかもしれません。できて当たり前のレベルにしないと次のトレーニングに進めないから、もしくは進んでも効果が出にくいということがイメージできるからです。
少し話は変わりますが、基礎と似たような言葉で『基本』というものがあります。これは「物事が成り立つためのよりどころとなる大もと」という意味で使われます。言い換えると判断や行動の指針という意味です。
基礎の持つ建築用語としての意味を振り返ると、基礎という言葉の方が基本という言葉より根底にある印象を受けます。
先日お亡くなりになった野村克也氏も著書の中で「何事もスキルを身につけるには基礎・基本・応用というステップを順に踏んでいくことが必要だ」と述べられており、基礎が基本の土台という認識でよいと筆者は考えています。
ここで一旦話をまとめます。
基礎的なトレーニングと一言で言うが、個々で受け取り方が異なる。
そこで基礎という言葉の定義付けが必要。
筆者としては、人が本来備えている身体の構造と定義したい。
となります。
様々な動画は『基本』かもしれない
基礎という言葉を定義したところで考えたいのが、目の前にある、もしくは頭の中で考えているトレーニングです。
最近は様々なトレーニング動画を目にすることができますが、それらは基礎のレベルをクリアしている選手による『基本や応用のトレーニング』である印象を筆者は抱きます。
もしそのトレーニングを取り入れるのであれば、見習うのはその根底にある基礎のレベルの高さです。
例えば立位で行うトレーニングであれば足関節の構造は気になります。足関節の前面にある前脛骨筋腱の周辺組織は硬くなっていないでしょうか?腱の内側の組織が硬くなることが多いのですが、それを放置しておくと足関節の底背屈の動きが正常から逸脱していきます。
足関節はただの一例に過ぎませんが、トレーナーはそのような観点からもアプローチを図り、選手のパフォーマンスアップに貢献できる必要があります。大きな建物の基礎は、外からでは見るのが難しいからです。
言葉を定義するとやるべきことが見える
「基礎ってよく使う言葉だけど、イメージが曖昧じゃないか?」
そんな筆者の未熟さから出発した今回の記事でしたが、言葉の意味を定義したことで学ぶべきことやトレーニングの選択方法について整理することができたと感じています。
また1つのトレーニングに対しても、基礎をどのレベルにおくかでそのトレーニングが枝分かれしていき、多種多様なトレーニングが思い付くようになります。
トレーニングの引き出しが少ないと感じているトレーナーは、たくさんの枝を出せるように要素の抽出を試みるといいかもしれません。
今回の定義付けにおいての『基礎』を構築していくためには人体の構造、特に関節の構造や動きを理解していく必用が生じてきます。その部分のケアやトレーニングが基本・応用そして競技の動きに繋がっていくからです。
関節の構造、機能、動きそして改善方法はJARTAのセミナーではコンディショニングスキルセミナーで学ぶことができます。
セミナー情報はこちらから
大きくて立派な建造物ができるように。地味で辛い基礎的なトレーニングを、少しでも楽しく継続していけますように。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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