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2019年10月19日

患部外トレーニングでも患部に影響する


文:平山鷹也
 
「患部外トレーニング」
 
怪我をしたことがある選手なら必ず聞いたことがあるこの言葉。
 
膝や股関節を痛めたときに体幹や上半身の筋トレをしたり、
逆に肩や肘などを痛めたときにスクワットなど下半身のメニューを行ったりすることを、一般的に患部外トレーニングと言います。
 
今回は、痛めたところに負担がかからないようにしながら行うトレーニングを、
「患部外トレーニング」ということにします。
 
 
選手やトレーナー、指導者の皆さんは、患部外トレーニングにどんなイメージを持っているでしょうか。
 
 
・怪我していないところの筋力低下を防ぐために行うもの
・怪我していない腕(脚)をパワーアップするために行うもの
・復帰できるまでの代わりの練習
などなど。
 
他にもあるかもしれませんが、患部に影響を与えないトレーニングを行う、と認識している方も多いのではないでしょうか。
 
 
ではここでタイトルの質問をしてみます。
 
患部外トレーニングは、患部に影響はないのでしょうか?
 
 
私の考えは、
「ほとんどの場合はNo」です。
 
ほとんどの場合は、とにごしているのはすべてを実証できることではないからで、実際に全く影響がないことはないと考えています。
 
 
ここから少し具体的な話をしていきますが、その前にまずは影響にも2種類あることに触れておきます。
 
つまり、①悪い影響と②良い影響です。
 
悪い影響とは、患部外トレーニングの結果として患部の治りが遅くなったり、パフォーマンス低下を招いてしまうこと。
 
良い影響とは、患部外トレーニングをすることで患部の治りを早めたり、パフォーマンスアップにつながること。
 
では、それぞれ具体的に考えてみましょう。
 

  • 悪い影響
    わかりやすいところで、慢性障害によって練習に支障が出てしまい、患部を安静にしている間の患部外トレーニングについて考えてみます。これは練習を続けながら慢性障害の改善を図っていくときにも重要な考え方になります。
    慢性障害の原因は多岐にわたりますが、多くの場合可動域や筋力、身体操作的問題によって局所への負担が集中することで起こります。
    つまり全身のバランスが崩れたことによって現在の痛みが引き起こされていると考えられます。
    実際のスポーツ場面では指の先から足の先まですべて関係しあっています。
    それは筋連鎖や運動連鎖など他にも様々な観点から考えることができますが、この影響を考えないと患部外トレーニングで患部に悪影響を与えてしまう可能性があります。
    実際に遭遇した例として、走ると膝の前方が痛くなり、全力で走れなくなったので一度練習から外れて患部を休ませ、その間は患部の治療と並行して患部外トレーニングを行うことになった選手がいました。
    そしてその期間、体幹トレーニングとして腹筋運動(クランチ)をたくさん行ったそうです。
    そうして一定期間の休養を経て再度練習に復帰したが、しばらくしたらまた痛みが出てきて、しかも前回よりも痛みが強く出るようになってしまった。
    これはいったい何が起こったのでしょうか。
    1つの仮説として、腹筋運動で鍛えられた「腹部前面にある腹直筋」と、
    膝前方の痛みと関連が深いと考えられている「太もも前側の筋肉である大腿四頭筋」との関係性から考えてみます。
    ・腹直筋と大腿四頭筋は筋膜を介してつながっており、腹直筋の収縮を繰り返す腹筋運動によって大腿四頭筋の緊張も高くなった
    ・腹直筋の緊張が高くなることで骨盤が後傾すると、動作時の重心が後方へ移動し、大腿四頭筋の緊張が高くなるので膝への負担が増大した
    ・腹部が硬くなってしまうことでみぞおちの動きが悪くなり、上半身で生み出した力を下肢へ伝える効率が下がることで膝への負担が増加した
    などなど、挙げればきりがありませんが、今回の例では腹筋だけを鍛えるのはリスクが高かったようです。(腹筋運動が必ずしも悪いというわけではありません)
    このように、患部へ悪影響を与えてしまうような患部外トレーニングが、現場ではまだまだたくさんあるように感じます。

 

  • 良い影響
    では次に患部に良い影響を与える患部外トレーニングとはどのようなものがあるのでしょうか。ここでも上と同じ膝の前が痛い選手を例に考えてみます。
    これは実際に私の経験ですがその選手はみぞおちが硬く、脚を腹部に引き付ける作用がある「大腰筋」が上手く働いていないことが予測されたので、
    「大腰筋T-レフストレッチ」を行ってから、トレーニングを行いました。
    (大腰筋T-レフストレッチはJARTAベーシックコースで紹介しています)
    そうすることで腹部の余計な緊張がとれ、大腿四頭筋だけで脚を持ち上げることが減り、練習へ復帰してからも膝の痛みなくプレーできるようになりました。
    (筋肉だけでなく、内臓、自律神経、循環などの関連も深い場所ですが、今回は割愛します)
    今回は慢性障害を例にしましたが、実は捻挫や骨折などの急性外傷でも同じように考えていくことができます。
    急性外傷では、まず損傷された靱帯や骨の修復が最優先されるので、循環や回復能力と全身との関係性をより深く考えていく必要がありますが、基本的な考え方は同じです。
    患部外トレーニングを行うときこそ、悪い影響を最小限にしながら、良い影響が最大限得られるように、トレーニングしていく必要があります。

 
いかがでしたでしょうか。
怪我はするということは、自分の伸びしろに向き合わなければならない期間でもあります。
選手の皆さんにとってはつらく苦しい期間だと思いますが、その怪我があったからこそ成長できたと思えるように、その期間を大事に使ってほしいと思います。
我々JARTAの認定トレーナーは、120%での競技復帰を最低限の目標として設定しており、今回の記事の内容を常に突き詰めて考えてトレーニングを提案します。
 
全ては、選手のパフォーマンスアップのために。
 
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 

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