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2015年09月02日
世界陸上男子100mからみる認識力の相互作用と重要性
安定したパフォーマンスを発揮するには自分自身の状態と、自らが置かれている状況を的確に認識する必要があります。めまぐるしく変化するスポーツの場面で的確かつスピーディーに自分自身が置かれている状況を認識するにはどうすればいいのでしょうか?そこには内的認識力と外的認識力の相互作用の理解が鍵になっています。
JARTA認定講師の岩渕翔一です。
今回は、安定したパフォーマンスの発揮に重要な要素である「認識力」についてです。
<認識力とは>
JARTAのベーシックセミナーではパフォーマンスの構成要素について詳しく解説しています。認識力とはハイパフォーマンス発揮のための必要構成要素で内的認識力と外的認識力に大別できます。
まず、自分自身の身体や精神に対する認識力のこと内的認識力といいます。
身体の状態を的確に感じるには筋紡錘やゴルジ腱器官などからなる固有感覚受容器が活性化している必要があります。
固有感覚受容器の働きにより、身体の位置や動き、力がどれだけ出ているかなどを感じる事ができます。
つまりトレーニングやパフォーマンス、試合の際に自身の身体や精神がどういった状態にあるのかを適切に認識するには固有感覚受容器を活性化させる必要があります。
もう一つの外的認識力とは内的認識力で認識されるもの以外を指します。
つまり自分自身以外全ての情報です。例えば試合当日の気候や対戦相手、試合の状況、チームメイトの状態、声、ボールやその他競技道具の状態などが当たります。具体的には視る、聞く、臭う、味わう、触るという五感で得られる情報です。
<内的認識力と外的認識力の相互作用>
このように認識力は内外の二つに分けられますがこれらをいかに統合して的確に処理できるかが重要です。
なぜなら自分自身の情報である内的認識力と外部情報である外的認識力は常に同時に入ってきてまとめて処理されるため否が応でも互いの影響を受けるからです。
JARTAのセミナー講師をしていて何度かこういった質問をいただきました。
「陸上や水泳は球技などに比べて外的認識力の影響をあまり受けない競技という認識で良いでしょうか?」
さてどうでしょうか?
認識される(するべき)要素は当然それぞれの競技で異なります。
しかし結論から言いますと陸上や水泳といった競技も外的認識力は身体に大きな影響を及ぼし内的認識力の精度を左右しパフォーマンスに直結します。
<2015世界陸上男子100mから見る認識力の重要性>
男子100mは世界記録保持者で世界陸上3連覇を目指すジャマイカのウサイン・ボルト選手と今季世界最高記録保持者で絶好調のアメリカのジャスティン・ガトリン選手の一騎打ちの様相でした。
勝ったのはウサイン・ボルト選手。私は正直今回はガトリン選手に分があると感じていました。
決勝までの二人のタイムがこちらです。
予選、準決勝のガトリン選手の充実ぶりは明らかで、準決勝では残り数mを流してこのタイムでした。
対するボルト選手は準決勝でスタート直後に躓くなど不安定なパフォーマンスを見せていました。ここまでの過程と結果を見るとガトリン選手優位は揺るぎないように感じました。
しかし決勝で勝ったのはボルト選手。
映像を見れば明らかですが、ガトリン選手は残り10〜15mほどで明らかにバランスを崩します。
ここまで抜群のパフォーマンスを安定して見せていたガトリン選手が明らかにバランスを崩し敗れました。この敗因についての分析は多角的に評価する必要があるのは大前提として、認識力という面にフォーカスするとどうでしょうか?
- ボルト選手に勝ちたい
- 世界一になりたい
- 調子の良さが勝ちを過度に意識させた
- 33歳という年齢で考えたときの残されたチャンス
上げればキリがないですが、
ボルト選手という外的要因と自分自身の調子の良さというのを含めた内的要因が複雑に絡まり予選、準決勝で見せたようなパフォーマンスを発揮する事ができなかったのではないか。と言えるのではないでしょうか?
つまりボルト選手という圧倒的な外的要因をうまく認識処理できずにさらに、内的要因である調子の良さが裏目に出て、勝てるという感情と勝ちたい気持ちが先行し過ぎた。さらにボルト選手は決勝ではさすがそれなりにまとめてきた。それら複数の要素が絡み合い、それが力みにつながりラスト15mほどでガトリン選手はバランスを崩した。
これはあくまで認識力にフォーカスした分析ですが、どんな競技でも認識力というのは重要で内的外的要因が複雑に絡まり相互作用で成り立っているということがご理解いただけるのではないかと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。