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2014年03月13日
スポーツトレーナーに必要なプレゼン能力
スポーツトレーナーに必要なものは、コンディションやトレーニングの技術だけではありません。
今回は、私イタリアで感じたスポーツトレーナーに絶対欠かせないプレゼン能力や、その方法について具体的にお伝えします。
JARTA代表の中野です。
これまでお伝えしてきたとおり、イタリアサッカー界有数のクラブであるインテルユースで採用されてきたメディカル・トレーニングシステムは、「豊富な資金」、「豊富な人材(選手層)」、「豊富なスタッフ数」という前提があってこそ成功するものでした。
逆にいうと、これらの要素が揃わない状況で同じシステムを追い求めても、それはうまく機能しないのではないかということです。
具体的な要素で考えると、
- 選手の怪我をシステムとして防止できない。
- トレーニングシステムとして効率よくパフォーマンスアップを図れない。
※上記二点は現状として選手の「センス」に依存する度合いが高い。
- 結果として、人的補償やチームの成績悪化など関連事項のコストが増大する。
これらは、現在の日本のスポーツチームの多くが抱える問題点ではないでしょうか。
また、“定義”にもよりますが、ここではクラブ側のニーズです。
インテルのような大きな市場(セリエA)を相手にしている場合、各世代で1〜2人がトップチームに上がればクラブ側からすれば成功なのです。
そこに選手側の、「怪我を防ぎながらパフォーマンスを向上し、トップに上がりたい」というニーズは十分に反映されない、つまり素質のある選手が生き残ってくれれば良いという観点であるということです。
つまり、上記3要素を欠いた日本の多くのチームや組織が求めているニーズとは明らかに異なるのです。
現場の指導者や選手、運営側を納得させられなければ、先は暗い
ここからは今回の本題、「こちらに対してまだ信頼を得ていない相手に対して考えるべきこと」です。
私自身もなんどもぶつかりましたが、基本的にトレーナーの能力というものは数値化できないものであり、つまり相手にしてみればトレーナーの能力はあまりにもわかりにくいものなのです。
そのような前提がある中で、新たなトレーナーや新たなトレーニングを導入することは大変勇気が必要であり、選手や運営側にしてみればリスクが伴うものです。
つまり、基本的には「疑い」「不信」からのスタートとなることは認識しておくべきことです。 (だからチームのOBや、コネクションによる採用が多いのですが・・・)
そこで相手がまず何を指標にするかと言うと、「説明」です。
- あなたに何ができるのか。
- あなたに関わってもらうことで何が変わるのか。
- あなたのトレーニングで何が変わるのか。
- チームにとってどんなメリットがあるのか。
- これまでのトレーナーやトレーニングとどう違うのか。
- 効果がわかるまでどれくらい時間がかかるのか。
ここで非常に重要になるのが、「プレゼン能力」です。
上記の事柄について、選手や指導者、運営側に対して簡潔に説明できるでしょうか。
数値化できない技能を相手に理解してもうらうには
プレゼン能力、これはコーチングなどを含むさらに大枠の概念と位置づけています。
選手のモチベーションを高め、必要な場所(レベル、状態)まで“お連れする”概念であるコーチングを学ぶことはプレゼン以前の問題ですのでここでは述べません。
私が今回主題にしたいのは、コーチングも含めた、「数値化できない技能」を相手に理解、信頼してもらうための能力です。
そしてトレーナーとして現場で活動するために必要になる、最初の能力、それがプレゼン能力です。
「最初」ではありますが、自分の考え方や技術、指導力などの土台があってこそ磨かれるものです。この部分は必ず理解しておいて下さい。
つまり、自分の今持っている能力の全てがプレゼンに集約されると言っても過言ではないのです。
ところで、プレゼンというとどんなイメージでしょうか。
一般的には、会議室でクライアントに対してPowerPointを用いて、企画や戦略、商品発表や提案を行うようなイメージが多いでしょうか。
プレゼンテーションの定義は様々ですが、多くは、
「情報伝達手段の一種で、対象に対して情報を提示し、
理解・納得を得る行為を指す」
とされています。
では、スポーツ現場におけるプレゼンテーションとはどういったことを指すのでしょうか。
まず対象となるのは、選手または指導者(場合によってはその関係者)です。 そしてさきほど述べましたが、基本的にトレーナーの能力というものは数値化できないものです。
つまり相手にしてみればトレーナーの能力はあまりにもわかりにくいものなのです。
スポーツ現場で必要な要素
これらのことを踏まえて、まずはスポーツ現場でのプレゼンに必要な要素についてご説明します。
1.相手(選手、チーム)のニーズを階層的・関係的(時系列含む)に把握する。
相手が何を求めているのかを複数挙げる(情報収集)。そしてそれらが互いにどのように関係するのか、優先順位は何なのかを考える。すなわちプレゼンの方向性。
2.相手の現状・問題点を把握する。
けが人が多い、再発が多い、フィジカルでの弱さが目立つなど。
3.「自分の主張したいこと」と1、2の関係性(目的、時系列、空間的、対象、程度、手段)をつかむ。
「自分には何ができるのか」は必ず言えるようにしておく。できればこれらは一言で。相手が理解できるベクトル上の表現で。
4.相手の理解・ニーズに合わせて簡潔に主張する。
場合によっては、その場で体感してもらう。
1〜4を総合的に判断して、最も有効な内容や伝達手段を決定する。
いかがでしょうか。
非常に抽象的でわかりにくい方もいらっしゃるかと思いますので、少しだけ具体例をあげてみましょう。
例えば今回のイタリア滞在で、私がインテルユースとの関わりにおいて実際に検討したケースです。
1.ニーズ
1)各年代からトップチームに上がれる選手を育成すること
すでにある程度実現していると思われますが、トップチームに上がれる選手の数が増えると、他のチームからオファーが増えて、移籍金を得ることができます。
2)ケガ人を減らすこと、復帰を早めること
ニーズとして表出していませんが、育成コストの削減の観点から推察できます。 そしてこれらの関係性を考えます。
- ケガによる離脱を防ぐこと(=当然身体の使い方は上達)ができれば、練習やゲームで実力を高める機会が増える、アピールする機会が増える。
- 現在のトレーニングに加えてさらに効果的なトレーニング方法があればさらに上記1)を実現できる可能性が高い。
非常にシンプルですが、このように考えます。
2.現状、問題点
現状としてACL損傷の選手が増加傾向にあり、私から見るとその対策は不十分なものでした。 ただ、現場サイドではあまり問題視していません。これは前回、前々回のブログでお伝えした「生き残り」システムとチームの成功定義により、表出されていません。
そして、西洋的システムの範疇としては十分な対策をとっているともいえました。
3.自分の主張したいこと、チームに対して何が出来るのか
一言でいうと、「もっと良いトレーニング方法があります」となります。
治療部分での主張も可能ですが、トータルで考えたときに、やはりケガからのリカバリー部分に重点を置くと、リスクにもなり得ます。 ですから、その部分を考慮して、「トレーニング方法」を中心軸に据えました。
4.主張する方法、手段
日本人同士なら、現状のトレーニング理論の“一般的な”問題点(具体的にチームのトレーニングの問題点を指摘すると角が立ちます)を挙げ、その解決策となるトレーニング理論を説明し、そして体験してもらいます。
このとき、そのトレーニングによるパフォーマンス向上などの研究データがあれば非常に有効でしょう。
しかし今回の例では、相手は文化の土台から全くことなるイタリア人です。理論はなかなか理解してもらいにくいことが予測されます。
そこで、いかに具体的に、いかに体験的にもっていくかという観点で戦略を考え、いくつかのトレーニングを実演、体験してもらいました。
ここではJARTAセンタリングトレーニングという表現ではなく、相手に合わせて「日本オリジナルのトレーニング」「武道武術がベース」という表現をしました。
当然、出来る限り効果がわかりやすいものを選択し、さらにサッカーのどの場面と関わるのか、ケガ増悪を防ぐ部分との関連性を具体的に説明しながらです。
以上が、実際に私が考え、実施した流れです。
今回のケースでは、相手がイタリア人(基本的に拒絶から入ります)、文化も生活の土台も異なる相手だったので非常に難しいケースでした。
その場ではやはり十分な理解を得られませんでしたが、その後「プレゼン動画を見たい」というオファーまでは辿り着きました。
ちなみに今回のプレゼン流れは、私がインテルに関わりたいという感じになっていますが、コーチといろいろ話している流れで興味を示していただき、偶発的にプレゼンをすることになったものです。
現時点では、プレゼントしては最低ラインの成功といえるのではないかと思います。
まとめ
大変長くなってしまいましたが、スポーツトレーナーに必要なプレゼン能力について、ある程度はご理解いただけたのではないでしょうか。
ここで最も心にとどめておいていただきたいことは、相手に理解してもらうのは簡単なことではなく、技術や表現を含めて事前の準備(心構え)が非常に重要だということです。
いくら技術だけを練習しても、選手や指導者は簡単には触らせてくれませんので。
今回でインテルを題材にした考察は終了です。
JARTAでは、認定スポーツトレーナーを対象に、実際にインテルユースを見学したり、現地のチームや日本人選手に指導する機会を持つことを目的とした「イタリアトレーナー研修制度」を実施しています。
実際にご自身で現地の空気を体感されることをぜひお勧めします。