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2017年03月20日

ブルース・リーから学ぶハイパフォーマンスの前提条件

「燃えよドラゴン」でおなじみのアクションスターであり武道・武術家であるブルース・リー。
彼が全米空手選手権で披露した「ワンインチパンチ」という技をご存知でしょうか?

ブルース・リーのワンインチパンチというものは武術の寸勁と呼ばれるもので、相手との距離が文字通り1インチ(3cm)の状態から行うパンチのことを言います。
ボクシングの様なパンチの打ち方とは異なり肘関節は伸展したまま行っていますが、僅か3cmの距離から相手を吹き飛ばすほどの威力を出すことができます。
打ち終わった後にその場から動いてないことからも、力ずくで押しているわけではありません。
JARTA認定講師の萩潤也です。
 
この「ワンインパンチ」にみられる身体操作は、あらゆる競技におけるパフォーマンス向上のヒントが隠されています。
今回いかなる原理・身体操作を用いることによってこのようなパフォーマンスが実現可能になるのかということをお話ししたいと思います。
 

<ワンインチパンチにおけるバイオメカニクス>

 
武術には発勁という力の発生の技術があります。
発勁とは「勁(運動エネルギー)を発生させ、接触面まで導き、作用させる」というものです。
 
「運動エネルギー」とは物理学において運動する物体が持っているエネルギーのことを指し、m(質量) v(速さ)とし、
 

と現されます。
 
つまり、より重たいものがより速く動くと、それに比例して運動エネルギーは大きくなります。
ヒトの運動エネルギーにおける質量とは主に体重に当たります。
ブルース・リーの体格は、身長171cm体重61kgで、日本人の一般男性とほとんど変わりありません。
そこでポイントとなってくるのは「速さ」です。
 
 

と現されます。
 
より長い距離をより短い時間で通過すると速度は速くなります。
しかしワンインパンチにおいては、自分-相手との距離は3cmしかありません。
一体どうやって相手を吹き飛ばすほどの「速さ」を作り出していると思いますか?
 
それは、
「身体そのもので距離を作り、通過時間を短縮するメカニズムを利用すること」
です。
実際には、

  • 並進エネルギーの増加(下肢→拳までの抜重(一瞬の重心落下)を利用した床反力による質量移動距離・速さの増加)
  • 仙腸関節→脊柱→肩甲骨の組織分化による極めて小さい上半身RSSC(回旋系伸張反射)の活用
  • 上記①・②により発生した合成速度と質量を合算し相手に作用することで自分の体格以上の相手を吹き飛ばすほどの運動エネルギーを生み出すことが可能となります。

<あらゆる競技に共通する本質力>

上記の原理を可能にするための具体的なトレーニング例として、
・抜重(一瞬の重心落下)・床反力の利用にはカットフォール・ヒールビーム
・RSSC(回旋系伸張反射)の利用には立甲やスパイラルスイング
といったJARTAセンタリングトレーニングによって身体操作方法を高めることができます。
 
今回はワンインチパンチという題材でお話ししました。
ディフェンスに囲まれながらの小さいモーションなのに物凄い威力があるシュートや、相手を置き去りにするようなドリブルなども前述したRSSCや抜重などが利用されています。
競技スキルの物理現象・身体操作を分析した上で、JARTAセンタリングトレーニングを行えば、競技に必要な「本質力」を高めることが可能です。
そして、そこに見られる共通項は、あらゆる競技におけるハイパフォーマンスの前提条件であると言えます
 

<まとめ>

・競技スキルの物理現象・身体操作の実現には本質力の向上が必要
本質力はあらゆる競技に共通するハイパフォーマンスの前提条件
 
トレーニングをして身体を大きくするなどの考え方は、運動エネルギーにおける質量を上げるという点では有効な手段の一つです。
しかし、生まれ持った質量を上げる事には限界があります。
その質量で劣りやすい日本人が海外の選手に勝つためには、身体を大きくすることだけでなく、本質力といわれる身体分化・操作能力を向上させていくということが必要となります。
 
最後までお読みいただきありがとうございました。