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2016年09月30日

パフォーマンスを引き出すために知っておきたいフィードバックの基礎

観客が自然としてしまう「あ~」「はぁ~」の反応は、選手のパフォーマンスにどのような影響を与えているのでしょうか?
 
東海地区で活動する認定講師の田中紀行です。

テニスの東レ・パンパシフィックオープンの際に、クルム伊達公子選手が観客の「あ~」に対して「ため息ばっかり」とイライラを募らせ、大声で叫んだのは、とても印象的であり、記憶にある方も多いと思います。
 
日本人が、選手のミスの際に「あ~」と出すのは期待の表れであり、決して悪い感情が含まれている訳ではありませんが、選手が受け取るイメージとしては、決してポジティブなものでなく、むしろエネルギーやモチベーションを奪われてしまいます。
外国では、ため息をつくという文化は日本よりも少なく、むしろポジティブに声援するというのが基本になっています。
 
では、観客だけでなく、監督や選手同士の反応は、運動学習の視点でどのような変化をもたらすのかを基礎的なポイントで考えてみたいと思います。
 

【運動学習のフィードバックに関連する要因】

 
 

Knowledge of result(KR:結果の知識) ⇒  課題がうまくいったかどうか

Knowledge of performance(KP::動作の手際の知識) ⇒  遂行中運動の特徴
例)サッカーのシュート
KR ゴールを決められたか、決められなかったか
KP シュートの態勢は整っていたか、コースをしっかり狙えたか、足はしっかりと振りぬけたか
 
 
運動学習に最も頻繁に用いられる要素としてフィードバックがあります。
フィードバックには、KRとKPがありますが、クルム伊達公子選手が観客から受けた「あ~」はKRに当たります。
KRの特徴として、適切な頻度やタイミングでなされる事により、運動の誤差情報を修正し、運動イメージを明確にしようとする反応が見られます。
逆にKRが多すぎると運動のイメージが曖昧になりやすいと言われています。
これは、KPの特徴としても重なる部分があります。
クルム伊達公子選手が観客から受けた「あ~」を解釈すると、ため息というマイナスの感情を繰り返し受けたことにより、自らの運動のイメージに狂いが生じ、パフォーマンスを落としてしまったということになります。
つまり声援一つでも、選手の外的や内的認識力に大きな影響を与えることが分かります。
しかし、クルム伊達選手の書籍からは、『私の場合、キレて自分を見失うこともない。何事も解決に向かうように努力します。
そのための感情コントロールは、まずは発散させることからです』とコメントされていることから、もしかしたら試合の時は意図的に行われていたのかもしれません。
 
以下に一般的なKR、KPの特徴を挙げます。
◆反復すると運動イメージが明確になりやすいが、イメージができてからKR付与した方が処理しやすい
◆KRを与えすぎると学習者がKRに依存的になり、能動的な情報処理が行われなくなる
◆KPは誤差情報で,KPを与えすぎるとパフォーマンスの過剰修正が起こり、運動のイメージが曖昧になる
 

【それぞれの立場で意識すべき事】

選手:練習や試合の際は、KRやKPによるフィードバックを受ける場面が多々あります。これらの外的刺激からの影響を最小限にするには、繰り返し運動イメージを作り、強化していく事が重要です。
つまり、基本的なトレーニング等の繰り返しを通して、身体の土台を形成すると同時に、集中力を高めていく必要があります。
本質的な基礎トレーニングはどのスポーツにおいても重要になります。
 
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(幼少期から行われるバレエのバーレッスン:身体の土台を育み、繰り返し行うことで集中力を高める)
 
監督やコーチ:KRだけでなくKPについても選手に過剰な情報を与えることで混乱を招く可能性があります。
情報を与えるばかりでなく、選手から求められる事を待つことも重要な戦略になります。
練習試行中の空白時間には、学習形成に必須な情報処理が行われています。
チームや個人の特性によりベストな状況を選択していけるようにすることが重要です。
 
観客:マナーを守り、選手がパフォーマンスを発揮できる環境を提供できることがサポーターとして重要です。
 

【まとめ】

選手個人やチームを強化していくのは、選手自身だけでなく監督・コーチ・トレーナー等のスタッフや観客、サポーターの存在が不可欠です。
それぞれの立場でパフォーマンスを引き出す事ができるような関わりができることにより、日本スポーツ界全体のレベルを引き上げることが可能かもしれません。
ちょっとした声掛けも、多角的な視点で捉えてみてください。