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2016年07月07日
スピードとパワーは両立できる
多くの競技において「どのような特徴のある選手になるのか」というのは、「どのようなトレーニングをするのか」に大きな影響を及ぼします。その中でもスピードとパワーは対比するような関係性で捉えられ、二者択一を迫られることが少なくありません。
スピードか?
パワーか?
どうでしょう?
スピードとパワーはそもそも対比されるような関係なのでしょうか?
JARTA認定講師の岩渕翔一です。
結論から言うとスピードとパワーは両立できます。というよりそもそも対比されるような関係性にありません。ただ、スピードとパワーの両立を実現することが難しいことは事実です。今回はそのことをバイオメカニクスの視点から考察してみようと思います。
まずパワーとは具体的になにを指すか。
パワーとは物理学で言う力[ニュートン(N)]を指し、
F(物体に働く力[単位:N]) = m(質量) × a(加速度[m/])
と現されます。
また、運動する物体が持っているエネルギーを「運動エネルギー」と言い、m(質量)、v(速さ)とし、
で現されます。
非常に簡単言うと、重ければ重いほど、速ければ速いほどパワーと運動エネルギーは高くなるということです。
つまり、速さや質量(重さ)というのはパワーを高めるための一要素だということです。
パワーを高めるためには重くて速いのが良いというのは分かっていただけたと思います。しかし、「重くて速いとパワーがある」という理屈は分かっても、それを実現するとなると難しいことは現実を見れば明らかです。
<重いと速いをパフォーマンス(身体及び動き)に置き換える>
重さを人の身体に置き換えると大きく分けて3つの要素が必要になります。
- 体重
- 重心の低さと安定性の高さ
- 基底面の広さ
この3つの要素です。体重は当然ですね。重心は低ければ低いほど安定し質量を効率よく使えます。基底面も同様に広ければ広いほど重心が安定します。A
とBの図ですが重さも大きさも全く同じです。Aのほうが押して動かすのに力が必要だということです。さらにAの状態では速く動くことは困難です。対してBは不安定なものの速く動きやすいはずです。
つまり、質量を保ったままあるいは質量を増やしつつBの状態に近づけること。高重心、狭基底面にも関わらず安定すること。この2つがパワーとスピードを両立するために必要であることが分かります。
<パワーとスピードの両立に必要な正確性>
図のBを見ていただけると分かりますが、速いというのは裏を返せば不安定であるということです。速くなればなるほど不安定になり正確性は落ちてしまいます。どんな動きであってもゆっくりのほうが、速いより正確に動きやすいということです(速さが増せばその分協調性は低下するということです)。さらに加速度が高くないと、速さを高めるまでの移動距離が長くなってしまいます。その分さらに正確性が落ちてしまいます。
そのため、多くの選手が、
- Aの状態でスピードは出ないけども安定していてパワーがある(重くて遅いがパワーがある)
- Bの状態で動きを小さくすることで正確性を高めスピードを確保する(軽くて弱いが速い)
というように速さとパワーどちらかを選択せざるを得ないのです。
裏を返せばこの課題を克服することがパワーとスピードの両立に近づけるという訳です。つまり、
- できるだけ短い距離(動き)で速さを出す(加速度を極限まで高める)
- 不安定な状態で速さを維持向上しつつ、正確性を高める
という2つの要素を高める必要があります。質量をうまく使うには、Bの状態で身体をうまくコントロールする能力と爆発的な加速度を実現する身体操作が必要ということです。
実はこれを実現に近づけるトレーニングがJARTAで行っている統合化トレーニング(センタリングトレーニング)なのです。
センター形成を促すトレーニング
→不安定な状態で身体をうまくコントロールする能力を高めます。認識力やアブレスト能力を高めることで速さとパワーだけでなく、その他複数の要素を両立できる身体に近づけます。
早度を高めるトレーニング
→瞬時の爆発的スピードを生み出すためのトレーニングがまさに早度を高めるトレーニングです。カットフォールやヒールビーム、フローティングステップなどがこの早度のトレーニングにあたります。
これらは一例で、センタリングトレーニングの概念は間違いなくスピードとパワーの両立を実現に近づけます。
<まとめ>
理想のプレイヤーに近づくためには、
- そうなるための構成要素はどういったものがあるのか
- 構成要素を高めるためのトレーニングはどういったものになるのか
- 高めた構成要素を統合する関係主義的視点
この3つが必ず必要になります。今回はスピードとパワーといったテーマで解説しました。どんな目標であってもこのような視点を持って論理的根拠のあるトレーニングを提供することがトレーナーや指導者の責任であるはずです。
最後までお読みいただきありがとうございました。