【再現性を高めるためのトレーニング -構成プロセス編-】

文:伊東尚孝

トレーニングを行う理由のひとつが、試合で成果を出すためであることは言うまでもありません。トレーニングで習得したことが試合で発揮されることで、勝利に近づくことができるでしょう。

しかし競技によっては、練習通りにパフォーマンスを発揮させやすいものと、発揮しにくいものが存在します。

前者は陸上短距離走やゴルフなど、相手からの干渉なく実力を発揮させやすい競技です。メンタル面では干渉されることもありますが、直接的に自分のプレーを邪魔されることはありません。(※とはいえ容易にパフォーマンスを発揮できるという意味ではありません。)

一方で後者はサッカーやバスケット、ラグビーなど、相手から直接干渉されることでプレーを制限させられる競技を示します。すなわち、相手が自分のパフォーマンスを発揮させないようにしてくる中でも、成果を出さなければなりません。

 

少し具体的に、サッカーのシュート動作を例に挙げます。フリーキックやPKを除き、多くの場合は相手からのプレッシャーがあり、自由にプレーできない状況でもシュートを打たなければなりません。その上、全く同じ状況が何度も訪れることはなく、たった一度のチャンスをものにしなければ得点につながりません。すなわち、その状況に適応させながらも再現性のあるパフォーマンスを発揮することが求められます。

いわゆる単調で型にはまったシュート練習では、そのような適応能力を鍛えるには時間がかかる(もしくは習得できない)ことは想像できると思います。

ボールの位置や自分の姿勢、相手との距離、ゴールまでの距離や角度、グラウンドコンディション、先制点なのか逆転のチャンスなのか。その状況に一定のパターンは存在せず、瞬時に適応しなければなりません。

このような不規則で偶発的な動作のパフォーマンスを向上するには、どのようなトレーニングが必要となるでしょうか。

今回は、そのような不規則で偶発的な動作に着目し、どのようなプロセスでトレーニングを構成するべきかを解説していきます。

 

 

【運動構造を二種類に分解する】

 

まず前提として、トレーニングを構築するためにはその競技の運動構造を理解しておく必要があります。このことは以下のブログに記載しています。

選手が本当に必要とするトレーニング

その競技で要求される運動構造を抽出し、目の前の選手の動作と比較した時、その選手の伸び代ポイント、つまり成長するための課題が抽出されます。

 

 

すでに上述したように、ある競技では瞬時に変化する状況に適応させながらも、高いパフォーマンスを発揮することが求められます。このように再現性が低く不規則で偶発的な動作を練習するなら、より試合に近い状況の練習を反復させることも有効かもしれません。

しかしその構造を理解せず闇雲に反復しているようでは、選手の伸び代ポイントが不明確なままトレーニングをすることになります。その結果、選手の成長に時間がかかってしまい効率性を欠いた練習になる可能性があります。

そこで必要となる分析は、運動構造の中で変化させない基本となる構成要素を抽出することです。

どの競技においても、目的の動作を達成するために欠かせない要素は必ず存在します。あらゆる動作の中でも、その基本となる構成要素が再現されるようにトレーニングを構成する必要があります。

言い換えれば、不規則で偶発的な動作に影響されることなく、基本となる構成要素を再現できる身体操作トレーニングが必要となります。

 

 

では具体的に、サッカーのシュート動作における基本となる構成要素とは何なのかを考えていきます。

右脚でのシュート動作では、蹴ると同時に左腕をクロスさせるように振っていることがわかると思います。これにより脚の振り抜く力だけではなく、腕振りにより体幹部の捻る力を増強させることで、パワーやスピードのあるシュートを打つことができます。さらにシュートモーションを速めることにもつながるため、得点力を高めるためには必要な動作パターンとなります。

また相手との距離が近いと、腕を使って相手との距離を保ちながらシュートする場合もあります。それでは左腕の振りが制限されてしまい上記の動作パターンを再現できなくなります。そこでトップ選手は右腕を後方に振る反動を利用することで、相対的に体幹部を捻れさせてシュートを打っていることが多いです。

 

様々なフェーズの動作を分析すると、このように共通するポイントがいくつか抽出されます。

多くの場合、それらが目的の動作を達成するための基本となる構成要素になります。

すなわち今回の例であれば、シュート動作の基本となる構成要素のひとつには、蹴り脚に対する左右の腕振りが挙げられます。

 

ここで基本となる構成要素が抽出されたので、これ以外を不規則で偶発的な構成要素と定義づけ上記の画像に当てはめると、

基本となる構成要素:蹴り脚に対する左右の腕振り

不規則で偶発的な構成要素:ボールに対する軸足の位置、姿勢(頭の位置や身体の傾き)、目線、重心位置など

このようになります。

 

(※もちろん、これ以外にも様々な要素が存在します。)

 

トップ選手のシュートを分析すると、相手を背負い姿勢が崩れるような場面であっても、腕を振りながらシュートしていることが確認できます。

 

 

【不安定な状況を作り出す】

 

これらを導き出すことができて、ようやくトレーニングを構成するための土台が整います。

これまでのプロセスによって基本となる構成要素が浮き彫りになるため、トレーニングの優先順位や重要なポイントを的確に押さえるためのヒントとなるでしょう。

 

しかし今回のトレーニング構成プロセスの目的は、“不規則で偶発的な動作に影響されずに基本となる構成要素を発揮すること”です。これらを達成するためには、もう一つ重要なプロセスを踏まなければなりません。

それは、基本となる構成要素はそのままに、不安定な状況を作り出すバリエーションに富んだトレーニングを行うことです。

再現性の低い場面に適応できないということは、動作の選択肢(バリエーション)が少なく、いつも発揮しやすい安定した(固定された)動作ばかりを再現してしまっていると言えます。

 

つまり、適応しにくい安定した動作を不規則で偶発的な変化に適応させるためには、安定した動作を脱し不安定な動作を取り入れることで習得できるということです。

 

例えばシュート動作における不規則で偶発的な要素のひとつである、軸足の条件を様々なバリエーションで設定するとします。軸足が不安定な状況であっても蹴り脚と左右の腕振りの関係性を崩さずにトレーニングを行うことで、今回の目的を達成するためのトレーニングを構成することを可能とします。

 

 

【トレーニング構成プロセスには膨大な準備が必要】

 

今回の内容は、あらゆる状況に適応させながらも再現性のあるパフォーマンスを発揮するための、トレーニング構成プロセスについて解説しました。

特に直接相手に干渉されてプレーを制限されるような競技では、そのプレーに欠かせない要素を明確にした上で運動構造を分解する必要があります。

 

トレー二ングの構成が効率的であることは、選手が成長するスピードを早められることを意味します。

つまり、トレーニングを構成する前の膨大な準備が重要です。

 

今回はトレーニグ構成のプロセス中心に解説してきましたが、具体的なトレーニングの選択方法などは、次の機会に解説できればと思います。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

 

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https://jarta.jp

 

 

〈参考資料〉

フラン・ボッシュ:コンテクチュアルトレーニングー運動学習・運動制御理論に基づくトレーニングとリハビリテーション,株式会社大修館書店,2020