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2019年03月03日

南米式パントキックの土台

 

文:岡元祐樹

 
「パントキックがイメージ通りに蹴れない」
 
サッカーにおいてゴールキーパーというのは、失点を防ぐことが主な仕事となります。
しかし戦術の進化によって、ゴールキーパーもキックの質が問われるようになってきました。その中でもパントキックはゴールキーパー特有の技術です。
 
遠くにいる味方選手に迅速に、正確に、トラップしやすいボールを蹴る必要があり、現代サッカーでは質の高いパントキックを蹴れることはゴールキーパーの大事な能力の1つに挙げられます。
「パントキックのミスが多いからレギュラーになれない」という場合も少なくないでしょう。
 
現代のサッカーにおけるゴールキーパーのほとんどが『南米式』と言われる形のパントキックを用います。
身体の横にトスしたボールをサイドボレーの形で蹴ることを南米式のパントキックと呼びます。
一方、身体の前方にトスしたボールを蹴るパントキックを欧米式のパントキックと呼びます。
 

 


繰り返しになりますが、プロ・アマ問わずほとんどのゴールキーパーが南米式のパントキックを採用しています。
しかしこの蹴り方は股関節の動きが欧米式のものより複雑で、難易度が高くなるため精度の向上にはコツがいります。
 
その反面、プロの選手は質の高いパントキックを当たり前のように蹴っているため、それに対する考察や細かい指導法はありません。
サッカー関連の書籍やネットでもあまり深く掘り下げられたものは無いのが現状です。
 
ゴールキーパーというポジションがある程度固定されてくる中学・高校のカテゴリーの選手の中には、パントキックの質の向上に悩む選手が多くいます。
飛距離、弾道、ボールのスピンなど思ったようなボールが蹴れない選手が多いのです。
 
チームに専門のゴールキーパーコーチでもいれば話は別ですが、そのような人材に恵まれたチームは多くありません。
またゴールキーパーコーチ自身もパントキックが苦手で教えづらいという場合もあると思います。
 
南米式のパントキックが一般的になってきたのは90年代後半からで、それ以前は欧米式のパントキックが主流でした。そのような時代背景もあり、南米式のパントキックは指導の難しさがあります。
 
 

なぜ南米式パントキックを選択するのか?

 
なぜ習得や指導が難しいのに、どのゴールキーパーも南米式のパントキックを採用するのでしょうか?その理由は多々ありますが最大の理由は『低い弾道でボールを蹴れる』ことにあります。
 
南米式のパントキックは低い弾道でボールを蹴れることが特徴です。
そのことで時間的に早く味方選手にボールを届けることができます。
加えて真っ直ぐなバックスピンのかかったボールだとトラップもしやすくなります。
そのためボールをコントロールしやすく攻撃への移行がスムーズになります。
 
 
一方、欧米式のパントキックは足の軌道ゆえに高くボールを蹴りあげることになるため、味方選手に到達するまでに時間がかかります。
その間にマークされてしまい思ったようにプレーできなくなります。また、高く上がったところから落下してくるボールはトラップも難しくなり、攻撃への移行は難易度が上がります。
 
各々の特徴を比べると、南米式のパントキックは味方選手に素早くトラップしやすいボールを届けられるという利点があることが分かります。
そして攻守の切り替えが早くなった現代サッカーだからこそ、南米式のパントキックが選択されやすいと言えます。
 
しかし冒頭で触れたように、南米式のパントキックは欧米式に比べて難易度が高くなります。まっすぐなバックスピンをかけて、低い弾道で狙ったところに蹴るには相当な練習量が必要です。
 
その練習をより効率的なものにするために『理想的なスイングの軌道』と『必要な股関節の柔軟性』について述べていきます。
 
 

理想的なスイングの軌道と必要な股関節の柔軟性とは?

 
パントキックでは弾道や飛距離やボールのスピン(ここではバックスピン)を両立させる必要があることは述べてきました。
 
物理的に考えると、このようなボールを蹴るためのスイングの軌道はある程度決まってきます。それは蹴りたいボールの軌道と同じ方向への直線的な軌道です。
 

 
 

 
 
もう少し精確に言うと、足部の軌道の上下方向の角度は若干ボールの軌道より低くなります。
バックスピンをかけるためにボールの中心の少し下を蹴ることになるので、ボールが足の軌道より高く上がるからです。
このような微調整が必要ではありますが、ボールに当たる足部の軌道は直線に近ければ近いほどボールをコントロールしやすくなります。
 
先に触れましたが、足部の軌道を直線に近づけるには、蹴り足側の股関節の動きが重要になってきます。ここからは蹴り足の股関節の動きに着目して話を進めます。
 
実は『欧米式』のパントキックはこの軌道を合わせるということが比較的簡単な蹴り方です。
蹴り足の股関節は伸展から屈曲といういわゆる後ろから前へのシンプルな動きになるからです。
 
一方、南米式のパントキックは伸展+外転(後ろに引く+外に開く)した状態からスイングが始まり、屈曲しながら外転位は保持しつつ内旋も入ってくる(前方に曲げながら外側に開く形を保持しつつ内側に捻る)という動き方をしないと直線の軌道を作り出せません。
 
こういった股関節の柔軟性がある選手は、キック練習を重ねていけば精度が向上していくはずです。しかし外転や内旋といった方向に硬さがある選手は、それも改善していかないとキック練習だけでは頭打ちになります。
 
外転や内旋といった動きが不十分だと直線的な軌道でスイングすることができず、弧を描くようなスイングしかできなかったり、下から上に蹴り上げる形になったりします。
その結果ボールが高く上がってしまったり、スピンが斜めになってしまったり、横方向のコントロールが安定しなかったりとイメージしたボールが蹴れないままになってしまいます。
 
質の高い南米式パントキックを体現するには、上記のような股関節の柔軟性が必要になってくるということです。
 
 

パントキックの基礎となるトレーニング方法は?

 
構造的な問題点があるのであれば、それを解消しなくてはパフォーマンスの向上は果たせません。この南米式パントキックに対応するためのチェック&トレーニング方法がありますのでご紹介します。
 

 
この動画のような動きが無理なくできることが第一段階。
無理なくできるとは『頭や腰がブレない』ことや『股関節周囲に痛みやきつさがない』ことが挙げられます。
このことは可動域に余裕があり、代償動作(股関節以外の部分を使ってその動きをする)が出ないということです。
 
第二段階としては1cmだけ足を浮かして水平に動かせる。
又は少し角度をつけてアッパースイング(斜め上方向にスイング)やダウンスイング(斜め下方向にスイング)ができるようになることです。
このことは多様な軌道のパントキックを蹴れることに繋がります。
 
 

ただ闇雲に練習するのはもったいない

 
今回は南米式パントキックについてその土台となる部分について述べてきました。
 
どの練習もそうですが、キックの精度というのは反復練習で高めることが重要になってきます。
実際のキック場面では土台の部分だけでなく、ボールと足が接触するミートの位置であったり、助走が入ったり、精神的な部分といったことも影響するからです。
 
反復練習だけで上手くなっていく選手とは、パントキックに必要な身体操作がすでに可能な選手です。
身体操作が不十分な選手にとっては反復練習のみでは上達が思うように進まない場合もあるはずです。その状態で闇雲に練習するのはもったいないことです。
 
すべてを専門的な言葉で理解する必要はありませんが、どのような動きができればよりパフォーマンスが向上するのかは選手も指導者も常に考えていく必要があります。
 
パントキックは苦手だけれど少しでも上達したい、上手くなりたい。
そんな選手や関わる指導者に今回の記事が参考になれば幸いです。
 
最後までお読みいただきありがとうございました。
 

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