トラップの瞬間に軸足はどうする?

文責:岡元祐樹

 

サッカーの試合で”トラップ”を見ていると「軸足をあえて浮かしている場面がある」ことが観察できます。

軸足をつけたままの”トラップ”とどのような違いがあるのでしょうか?

 

サッカー選手が試合中頻回に行う『トラップ』という技術。飛んでくるボールを見事にコントロールし、次のプレーに素早く移行していきます。

 

このトラップはサッカー選手に欠かせない技術の1つです。トラップでボールをコントロールできるかどうかで試合の流れが大きく変わると言っても過言ではないからです。

 

トラップでボールをコントロールし、次のパス、シュート、ドリブル等に素早く移行できれば、攻撃がスムーズになり得点チャンスへと繋がっていきます。

 

一方、トラップミスによりボールのコントロールに時間がかかるとそれだけ攻撃は遅滞し、最悪ボールを相手に奪われることもあります。このようなシーンはプロ・アマ問わず見受けられます。

 

そのためトラップ技術の向上は、サッカーで勝つために非常に重要な要素になってきます。当然その指導にも熱が入ります。

 

サッカーのトラップの指導でよく見受けられるのが「身体の力を抜いて」や「リラックスして」という指導です。

 

これは主に『ボールに触れる側の脚』を対象にした指導であり、非常に的を射ています。しかし反対の『軸足』に関してはどうでしょうか?

 

今回はトラップ技術の向上に欠かすことのできない『軸足の使い方』に着目したトラップ技術について説明していきます。

 

※トラップと言っても多種多様な種類のトラップがあるため、今回の記事では足部(スパイクシューズの部分)でボールをコントロールする場面を想定します。

 

 

 

トラップ時に軸足が浮いている

 

プロの試合でも『軸足をあえて浮かしているトラップ』は頻繁に観察できます。

大小や質の違いはありますがジャンプしているのです。

ジャンプしなくても十分に足が届くボール(グラウンダーやゴロのボール)でもです。

 

 

相手がいるためにスペースがなく、人もボールも速く動いているような場面では、軸足を浮かせたトラップが多くなってきます。

 

逆に相手からのプレッシャーがなくスペースがあり、ゆっくりボールを回すような場面ではその動きはあまり見られません。

 

この違いはなんなのでしょうか?

 

川崎フロンターレで活躍する中村憲剛選手も、過去に連載されていた記事の中で『軸足を浮かすこと』をトラップの技術として紹介しています。

(サイト『サカイク』URL https://www.sakaiku.jp/series/kengo/2015/010655.html)

 

 

軸足を浮かすことにどのような意味があるのか?その現象を紐解いてみます。

 

 

トラップ時に生じている物理現象

 

トラップを「飛んでくるボールの運動エネルギーを、身体を使って吸収する」という意味で捉えると、軸足を浮かす意味が見えてきます。

 

飛んでくるボールは必ず運動エネルギーを持っています。それを式で表すと

 

※K:運動エネルギー(トラップする際のボールの威力)  M:質量(ボールの重さ)  V:速度(パススピード)

 

となります。

 

中学生以上のカテゴリーで使用される5号球の質量は410~450gと決められています。

そのため速度の違いがボールの運動エネルギーを左右します。

上記の式に当てはめると、速いボールほど運動エネルギーが高まることがわかります。

速いボールほど当たると痛いというイメージです。

 

このボールが持っている運動エネルギーを0にすることができれば、ボールはピタッと止まります。

言い換えると、身体でこの運動エネルギーを吸収しなければなりません。その際に「軸足が浮いているか、いないか」で違いが出てきます。

 

軸足が地面に着いている場合、トラップする側の下肢(脚)でこの衝撃を受けることになります。

 

人間の片脚の重さは体重の約18.5%です。体重60kgの選手であれば11.1kgになります。この脚の質量とボールの質量は変わらないため、ここでも速度が重要になってきます。

 

ボールの速度が遅い場合あまり問題はありません。脚の方がボールより重いのでボールの運動エネルギーを0にするのは比較的容易です。

 

しかしボールの速度が速くなってくると、次第にそうはいかなくなります。

速度が速いとその分運動エネルギーも大きくなっていくため、トラップした足は大きく弾かれてしまいます。

弾かれた足は自由度を失い、次の一歩が出づらくなります。

加えて足が弾かれることにより重心位置も大きく移動してしまうため、バランスを崩してしまう可能性もあります。

 

そうならないように脚に力を入れると、今度は衝撃を吸収しきれずボールが弾かれてしまいます。

これが俗にいうトラップミスです。

 

ゆっくり飛んでくるボールはトラップしやすい。速く飛んでくるボールはトラップしづらい。

感覚的にわかっていることではありますが、物理的な側面で見るとこのような現象が起きているのです。

 

そのため、速いボールへの対応としては『軸足を浮かすトラップ』という技術が有効になります。

トラップの瞬間に身体が宙に浮いているということは、衝撃を受ける物質が片脚から『全身』になるということです。

先程の11.1kgが60kgに増えるということです。

 

そうなると同じ速度のボールでも、ボールを受ける選手側の質量Mが増えたので足が弾かれる度合いが小さくてすみます。

トラップによって足が弾かれる度合いが小さくてすむということは、それほど力を抜かなくてもボールを止められるということです。

 

ボールの威力を吸収でき、バランスも崩しにくい。

これは『次のプレーへの移行』がスムーズになることに繋がります。

 

前述した、スペースがなく人もボールも速く動いているような場面で軸足を浮かすトラップが多い理由について説明がつきます。

 

 

軸足を状況に応じて使い分ける

 

今回はトラップ時に軸足が地面に着いている状態と、浮いている状態について述べてきました。

どちらが良いのか?という話ではなく、次のプレーに応じた使い分けが大事だと筆者は考えます。

 

軸足を着いたままでも、トラップする側の脚でボールの運動エネルギーを0にできれば問題ありません。

足が弾かれても相手からのプレッシャーがなく、体勢を立て直す時間的余裕があれば大丈夫です。

 

逆に「速度が速くコントロールしにくそうなボール」「相手のプレッシャーが厳しくスペースがない状況」「トラップ後、瞬時に次のプレーに移行したい」場合などは軸足を浮かした方がより良いトラップと言えます。

 

レベルの高い選手は、このような物理現象をプレーの中から自然に体得しています。

トラップの時は軸足を浮かそうなどとはおそらく考えていません。

それよりも次のプレーのことを考えていると思います。

 

大事なのは軸足を浮かす浮かさないの判断や実際の動きを『自動化』できるまで練習を繰り返すことです。

加えて、速いパススピードに普段の練習から慣れておく必要もあります。

 

今回のようにトラップで生じる物理現象を知っていれば、トラップミスをした選手を指導する際にも幅が出てきます。

「力を抜く」「リラックスする」という指導以外にも「軸足の使い方」という違う視点を選手に提供することができます。

 

トラップ技術の向上を考える際には、ぜひ軸足にも注目してみてください。

 

多くの選手がトラップミスに臆することなく、レベルの高いサッカーが体現できるようになれば幸いです。

 

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