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2020年05月27日

皮膚にもセルフケアを

文:岡元祐樹

 
 
今回は『皮膚』について書いていこうと思います。
 
スポーツにおいて、動きを構成する要素として重要視されるのが関節や筋肉です。
 
しかし人間の身体を覆っている皮膚に問題があると、関節の動きが制限されることが報告されています。そしてその分、より大きな筋力を発揮しなければならないことも想定できます。
 
つまり動きが悪くなるということです。
 
動きのパフォーマンスを向上させたい。例えば、もっとパワーを発揮したい、もっと長時間動けるようになりたいといった願望があるのであれば、皮膚の状態も考慮する必要があります。そして可能な範囲でセルフケアをする習慣を身につけてほしいです。
 
 

実は運動に影響を与える皮膚

 
皮膚の役割というのは多種多様です。主な役割として一般的には次のようなものが挙げられます。
 
・水分の喪失や透過を防ぐ
 
・体温を調節する
 
・微生物や物理化学的な刺激から生体を守る
 
どれも生命を維持する上で重要な役割であると言えます。
 
これに加えて、運動への影響もわかってきています。関節の動きに応じて、皮膚もわずかに動いているのです。
 
逆に皮膚の動きが少ないと、関節が目一杯曲げ伸ばしできなかったり、動かすために余計に筋力を発揮しなくてはならなくなります。
 
試しに肘を伸ばしたままで肘周囲の皮膚をしっかり掴んで引っ張った状態を作ってみて下さい。その状態で肘を曲げようとすると、曲げていくにしたがって曲がりにくくなってきます。
 

 
各関節がどのように動くと皮膚がどう動くのか?については細かい話になってしまうのでここでは説明できませんが、皮膚の動きが乏しいと関節運動にマイナスに作用する可能性があることを頭に入れておいて下さい。
 
皮膚の動きと言われると一般の方はあまりピンとこないかもしれません。
 
足の裏や手のひらなどの特定の箇所を除き、皮膚は薄くつまんで引っ張ることができます。
 

 
これは皮膚が筋肉(浅筋膜)との間で滑るような動きが生じるためです。皮膚のゆとりとも言えます。
 
この動き(ゆとり)がないと関節はかなり動かしにくくなります。きついジーパンを履いていると運動しにくいことと同じです。
 
リハビリテーションの場面では、手術後の創部周囲の皮膚の固さや、火傷による皮膚の損傷により関節が動かしにくくなる症例が多く存在します。
 
 
手術痕や何かの傷痕のように目に見えやすいものであれば対策は比較的立てやすいのですが、発見しにくい皮膚の障害もあります。それは長時間の皮膚への圧迫による機能障害です。
 
この長時間の圧迫が極端に重症化すると褥瘡(じょくそう)、いわゆる床ずれと呼ばれる状態になります。
 
長時間座っているなど同一の姿勢で特定の皮膚に圧迫が生じてしまう場合、その部位が固くなる要因ができてしまうことは褥瘡の発生メカニズムからも言えると思います。
 
皮膚が固くなる原因は圧迫だけではありませんが、知らず知らずのうちに皮膚というのは固くなる可能性があるということです。
 
 

チェックとケアのやり方

 
精密さには欠けるかもしれませんが、ここで選手自身が行える皮膚のチェック、ケアの方法をお伝えします。
 
ここでいう『チェック』とは、自身の身体において皮膚が比較的固くなっている箇所を調べることです。
 
皮膚を薄くつまめるかどうか?シンプルにこれでいいと思います。
 
他の箇所にくらべてつまみにくい、やたら痛いという部分は何かしらの原因で皮膚が固くなっている可能性があります。
 
 
次に『ケア』ですが、ここでいうケアは皮膚の動きを向上させるための方法のことです。
 
チェックにおいて固さがあると思われる箇所を見つけたら、そこをつまみながら
 
①皮膚を上下左右などあらゆる方向に動かす
 
②近くの関節を動かす(例えば膝周囲の皮膚をつまみながら膝を曲げたり伸ばしたり)
 
というように動かしてみて下さい。
 
十数秒で関節が動かしやすくなる場合もあります。
 
個々の身体によって固くなる部位は異なりますが、代表的な部位を挙げておきます。
 
・内くるぶしの前側の皮膚
この部位は足関節捻挫の経験がある選手は特に固くなりやすいのでチェックが必要です。
 
・お尻の側面の皮膚
横向きで寝ることが多い選手はここが圧迫されて固くなりやすいのでチェックが必要です。
 
 
この他にも手術痕や傷跡があるのであればそこを中心に動きが固くなっていないかチェックしてみましょう。
 
固くなっている場所は固くなる何かしらの原因が存在します。その原因が解消不可能なものである場合、この皮膚のチェックやケアは常日頃行っておくことをオススメします。
 
 

あらゆる運動の基礎として

 
今回は運動に関係する『皮膚』につてお伝えしてきました。
 
前回の筆者の記事において、皮膚の滑走性について記載しました。
 
短くまとめると、座り心地の良い椅子に長く座っていると、圧迫され続けるお尻や太ももの後面の皮膚が固くなってしまう可能性があるという記載です。
 
前回の記事 生活の変化は身体の変化へ
 
自宅であればソファに座っている時間がそれにあたるでしょうか?
 
あらゆる前提条件の違いはありますが、褥瘡の発生条件も考慮すると、座っている時間が増えることで皮膚への圧迫時間が増えます。その結果、皮膚の固さに変化が出てくる可能性はあります。
 
皮膚は直接触れることができ、感覚や動きに大きな影響を与える臓器です。
 
そして大雑把なレベルの話ですが、その滑走性を向上するにあたっては、そこまで難しいスキルは必要ありません。
 
自宅でトレーニングをする選手が多いと思われる現状です。
 
自宅でふとソファに座った時、この記事のことを思い出して皮膚のチェックを行える選手が増えれば幸いです。そのことがその他のトレーニング効率を最大化することに繋がります。
 
最後までお読みいただきありがとうございました。
 

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参考文献
・福井 勉:皮膚運動学. 三輪書店,2010
・清水 宏:あたらしい皮膚科学 第3版. 中山書店,2018