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2019年07月04日

あらゆる競技に必要な頭部のコントロール

文:伊東尚孝

 
様々な競技で重要なファクターとなっているもの。
それが「重心操作」です。
 
高重心が有利なサッカーやバスケット、低重心が有利になる柔道や相撲など、競技の特性によっても重心のコントロールは様々です。
しかし高重心だけ、低重心だけを取得するのではなく、それぞれを使い分けることが重要になります。
 
 
そこで注目したい部位が「頭部」です。
頭部は言うまでもなく身体の頂点に位置し、身体の中で最も高い位置エネルギーを保持しています。
位置エネルギーを急速に落下させることで爆発的な運動エネルギーに変換することができ、強いパワーやキレのある動きを発揮することができます。
 
 
 
 
ここで、皆さんは日頃から頭の重量を感じることはありますか?
 
ヒトの頭の重量は、体重のおよそ8〜10%と言われ平均すると5〜6kg程度といわれています。
 
5kgのボーリング玉が、身体の頂点にずっとあるようなイメージです。
言われてみれば、想像よりも重たい印象があります。
 
 
しかし、プレー中はもちろん日常生活でも頭が重たいと感じることは少ないと思います。
(質量的な重さであり、重だるさなどは省きます。)
 
むしろ、何気なくそれだけの重量を“乗せている”ことが、当たり前になっているのではないでしょうか。
 
当たり前だからこそ、そこにパフォーマンスアップのための伸び代が隠されているかもしれません。
 
今回はそんな「当たり前」を見直し、頭部をコントロールするための基盤となる要素を解説していきます。
 
 
 

頭部のコントロールがもたらす効果

 
そもそも頭部をコントロールすることで得られる効果とは一体何なのかを、先に解説していきます。
 
冒頭でも述べたように、重心操作をする上で頭部のコントロールは重要ですが、それ以外の効果を以下に述べていきます。
 

  • 目線(視野)の確保

ほぼ全ての競技に必要不可欠なのが、目線や視野の確保です。
コンタクトスポーツでは、相手との接触により頭の位置がめまぐるしく変化します。
その状況でも味方や相手の位置、コートの状況、ボールの位置などを目線(視覚)によって把握します。
頭部をコントロールすることで両目はできる限り地面と平行な位置関係となり、状況判断を素早く行えます。
コンタクトスポーツ以外でも、野球やバレー、卓球といったボールに対する情報処理を視覚にて行う必要があります。眼球運動と頭部(頭頚部)にも密接な関係があるため、頭部のコントロールは重要となります。
 

  • 平衡感覚の確保

頭部には三半規管という、平衡感覚やバランスを担う器官があります。
競技によって様々ですが、多様な動きを求められる動作であれば平衡感覚は必要不可欠です。頭部の傾きによって身体をどのように修正すべきかを判断する必要があります。
 

  • 呼吸

頭部には呼吸筋である胸鎖乳突筋が付着しています。特に有酸素系の競技であれば、努力吸気筋である胸鎖乳突筋は過活動になりやすいです。
頭部をコントロールすることにより、運動量が増加しても呼吸がしやすくなります。
また気道の向きによっても呼吸の質が変化するため、頭部(頭頚部)の位置関係は重要となります。
 
 
これらのように頭部とスポーツはかなり密接な関係にあり、上記のように様々な効果が期待できます。
 
では、これらの効果を効率良く発揮するためにはどうすればいいかを以下に述べていきます。
 
 
 

頭部と腕を支える筋

 
まず、頭部(頭頚部)の解剖学をおさらいします。
頭部に付着する筋の中で最も強い力を発揮する筋は、僧帽筋です。
 

 
試しに、両肩を思いっきり引き上げた状態で、他の人に両肩を引き下げてもらってください。
おそらく肩はビクともせずに引き上がった状態を保持できると思います。
(※急激に行うと頚部を痛める可能性があるため、力加減に注意してください。)
 
僧帽筋はそれだけ強い出力を発揮できます。
 
その理由は、僧帽筋が頭部と腕(肩甲骨)を支えている筋だからです。
 
頭部の位置関係を見てもわかるように、後頭骨に付着する僧帽筋の負担は大きいことが想像できます。
腕は肩甲上腕関節により肩甲骨とつながり、肩甲骨は僧帽筋に釣り下がっている状態にあります。
(もちろん他にも様々な筋が関与しています。)
両腕の重量は体重の約10%であるため、体重が60kgであれば両腕で6kg程度ですので、頭部と合わせると10kg以上あります。
 
 

 
このことから、僧帽筋は頭部だけでなく肩甲骨を支えるための重要な存在であることがわかります。
 
 

支えるとコントロールの違い

 
頭部と腕(肩甲骨)を支えるために必要な僧帽筋ですが、競技においてその出力は阻害因子になる恐れがあります。
 
なぜなら僧帽筋は、頭頚部のコントロールには不向きだからです。
 
 
試しに、先ほどと同様に両肩を思いっきり引き上げた状態で頭頚部を動かしてみてください。
脱力している時の方が動きやすいことは明らかだと思います。
 
つまり頭部のコントロールには、僧帽筋をはじめとする頭頚部筋の脱力が必要です。
 
トップ選手の頭部を見ると首が長いように見えリラックスしており、急加速するフェーズでも目線はほぼ地面と平行な位置関係になっています。
C.ロナウドがヘディングする時には、肩甲骨がズルッと下がっていることで頭部をコントロールし正確なヘディングシュートを放っています。
(検索するとすぐに動画が出てくると思うので、ぜひ観てみてください。)
 
 
また、僧帽筋の作用は肩甲骨の挙上・内転であり、ハイパフォーマンスに必要な立甲とは真逆の作用となります。
(立甲は獲得できて終わりではなく、いかにパフォーマンスにつなげることができるかが重要です。→立甲を再考する
 
 
「肩の力を抜け!」「リラックスして!」
このような声かけをしたこと、されたことがあると思いますが、
この肩の力みや肩をすくめる姿勢(僧帽筋の過活動)が、冒頭で述べた【頭部のコントロールがもたらす効果】が失われることを、我々は無意識に体感しているのです。
 
 
つまり、頭部をコントロールするための基盤には、頭部と肩甲骨の関係性が関与しているといえます。
 
 
 

頚部Tレフストレッチ

 
僧帽筋を含めた頭頚部筋は、常に10kg以上の“重り”を支えていることになります。
頭部をコントロールしやすい環境にするためには、それらの筋の緊張を定期的にゆるめる必要があります。
 
今回紹介する頚部Tレフストレッチはセルフでも行うことができ、僧帽筋以外の筋にも一度にアプローチすることが可能です。
 

 
 
 

まとめ

 
いかがでしょうか。
普段何気なく“乗っている”頭部ですが、パフォーマンスアップに必要な要素がたくさんあります。
頭部のコントロールには肩甲骨との関係性が重要であると述べましたが、さらに深掘りしていけば、胸郭の可動性や脊柱(背骨)の柔軟性、それに伴う自律神経系の調整など、挙げ出せばきりがありません。
 
また日常的な頭頚部筋への負担は避けられず、完全になくすことは不可能です。
しかし上記で紹介したTレフストレッチを行うこと以外にも、
負担を減らす「行動」はできるはずです。
 
例えば、スマホを見る姿勢。
この記事を読んでいる方のほとんどが、スマホを使用していると思います。
 
 
今、どのような姿勢でご覧になっているでしょうか?
 
 
今一度、頭部のコントロールを阻害している生活習慣(ルーティン)を見直してみてはいかがでしょうか。
ルーティンがもたらす3つの効果
 
 
 
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 

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