



スポーツにおけるパフォーマンスを考える時、その土台となるフィジカルの側面において重要なことは何でしょうか?
どんなフィジカル能力を備えておけば、身体操作やスキルといった難題をうまく獲得していけるのでしょうか?
そして、どんな能力を備えておけば、「フィジカルの差」と言われることが多い問題である、自分より力の強い相手・自分より体格に勝る相手に対して対等以上に戦うことができるのでしょうか?
スポーツにおいては様々な「動き」が要求され、それは競技ごとに大きく異なります。
それ故、どんなフィジカルトレーニングをやれば良いかがわからない、という相談は非常に多く寄せられます。
ここで重要なことは、「どういう目的で」フィジカルトレーニングを行うのかです。
具体的にいうと、「どういう身体能力を得るために」フィジカルトレーニングを行うのか。
多くの場合、そのトレーニングのスタイルばかりがフォーカスされ、そのトレーニングをやればどのような能力が身につくのかが非常に曖昧なのです。
身体の土台については、大きく分けて、以下の二つがあります。

それぞれについて、これまで非常に多くの知見が示されてきました。
そして多くの場合、どちらが良いのかという議論に行き着いています。
もちろんこの議論は答えが出ません。
なぜなら、どちらもフィジカルの能力としては重要なものだからです。
パフォーマンスを高めていくためには、どちらも欠かすことはできません。
例えば、骨の力を生かして、人や物に強い衝撃を加えたい場合は、関節を固定するために身体を瞬間的に固める必要があります(関節間力)。逆に柔らかいタッチでボールを遠くに飛ばしたい場合は、体幹部分は柔らかく使って長い時間ボールに力を加え続ける必要があるのです(力積)。
高いパフォーマンスを実現するためには、どちらも使いこなせる必要があります。
フィジカルトレーニングを行う大きな目的の一つには、この剛柔の両方を持ち合わせた身体能力を獲得することにあるのです。
その方向性の中で、パワーやスピードを高めていくことが近道です。
トレーニングの解剖生理学的・神経生理学的・物理的な分析を基にした実施と継続により、剛と柔、この相反するものは両方を同時に持ち合わせることができ、それらを局面に応じてそれを使いこなせるようになります。
また、この考え方は怪我の防止にも非常に有効な考えを示唆します。
リハビリテーションの国家資格である理学療法士の世界では、動作レベルにおける正常と異常の違いを、「多様性」の違い、と定義しています。
これは、必要に応じて自分の動きを多様に変化させられることは、怪我を防ぐことにつながっていることを意味します。
逆に多様性の低下(=パターンの固定)は、どんな場面でも同じパターンの動きしかできないことを示しており、身体の同じ部位ばかりに負担を集中させることにつながります。これが多くの怪我や痛みの根底的な原因なのです。
固めるだけのトレーニング、柔らかさだけを追求したトレーニングでは、パフォーマンスアップ要因として不足しているだけでなく、怪我のリスクまで増大する可能性を秘めているのです。
JARTAのトレーニングでは、アブレスト能力(同時実現能力)という考え方をベースに様々なニーズに合ったトレーニングシステムをご用意しています。


JARTAでは、トレーナー養成をする上で、トレーナー自身の身体づくりや身体操作の追求といった「トレーナー自身のトレーニング」
を非常に重視しています。
なぜ実際に競技をする立場でないはずのトレーナーの身体づくりや身体操作を、重視する必要があるのでしょうか?
それはトレーナーのトレーニングが、選手のパフォーマンスアップに深く関与すると考えているからです。
トレーナーの仕事は、大きく分けて選手のメディカル面のサポートとフィジカル面のサポートに分類されます。
メディカル面においては、応急処置以外では選手のコンディショニング(施術)場面で高度の身体操作を要求されます。
同じ技術でも実施する人によって効果に差が出るのは、この身体操作によるものだと言われています。
(当然その土台には知識と技術の差は存在します)
フィジカル面のサポートにおいては、主にトレーニング指導が求められます。
ここでも、トレーナーはトレーニングの手本を見せるために高度の身体操作を要求されます。
選手は、トレーナーやコーチの動きをしっかり見ていますし、その動きそのものをモデルケースとしてトレーニングを重ねます。
そのモデルケースの出来次第で、選手のトレーニングの実施レベルは確実に左右されます。
当然モデルケースのレベルが低いことが選手から十分な信頼を得にくい原因となることは、多くの選手が語っています。
つまり、選手のパフォーマンスを向上させるために、トレーナーの身体づくり・身体操作能力の向上が必要なのです。
これらの理由から、JARTAでは選手のパフォーマンスを向上させるための必須条件として、トレーナー自身が高度な身体操作を実現するためのトレーニングを重視し、トレーナー養成カリキュラムの重要ポイントとして位置付けているのです。
JARTAは、一般的にはパフォーマンスアップと無関係と思われるようなことでも、「全てはパフォーマンスアップに繋がっている」と考えられる思考・行動をトレーナーの能力として重要視しています。


トレーナーやコーチとして選手のパフォーマンスを向上させていく上で、見落としてはならないポイントがあります。
それは、パフォーマンスの構造です。
パフォーマンスをアップさせるには、その構造を熟知していなければなりません。
パフォーマンスは大きく分けて、フィジカル | スキル | 認識力(内的認識力・外的認識力)の三つの構成要素から成ります。

※内的認識力とは、自分の状態がどうなっているかということを認識する能力のことです。
例えば今どこに重心位置があるのか、どこに力が入っているのかということが認識できる能力のことです。
※外的認識力とは、相手と自分の位置関係であったり、ゴールまでの距離や方向、ボールの重さや道具の重心位置を認識する能力のことです。
スポーツ科学の発展によりこれらの要素の細分化については非常に進んできています。
そして現状のトレーニングの傾向として、細分化したものを個別に強化し、それぞれの向上が全体の向上につながるという考え方になっています。
しかし、ここで気をつけたいのが、それぞれの関係性です。
この三つの構成要素は、決して別個に独立して成立するものでなく、お互いに強く影響し合います。
例えば、フィジカル強化を目的として重いバーベルを何回も挙げられるように全力でバーベルを持ち上げている時、内外の認識力はどうなっているでしょうか?多くの場合、全力でバーベルを持ち上げることに集中がいくことで内外の認識力は発揮されていない傾向が強くなります。
このとき問題になるのが人間の学習能力です。
人間はすべての運動と、その運動の状態を学習します。
例えば日常生活の動作も競技のパフォーマンスに反映されるのです。
バーベルを持ち上げるために全力で筋力を発揮することと、内外の認識力を発揮することは一見別個のように思われがちですが、そうではありません。
人間は良くも悪くも、すべての運動を学習してしまいます。
この場合、認識力を発揮しない様式での筋力発揮を学習してしまうのです。
この作用が、「身体は大きくなった、筋力も上がった、でも肝心の競技でパフォーマンスが低下した」という現象の理由です。
(これをマイナスの学習といいます)
パフォーマンスアップを考える上では、実施するトレーニングがフィジカル・スキル・認識力がどのように関係し合うのかを念頭に置く必要があるのです。
JARTAではこの考え方を統合化トレーニングとし、トレーニング指導においては、強化する一つの要素がどのように他の要素に影響を与えるのかを分析しながらトレーニング方法を考案し、マイナスの学習を排除しながらパフォーマンスアップを図っています。

