橋本悠太


1 私がスポーツトレーナーを目指した理由

「スポーツの現場で選手の間近でサポートしたい」そう考えるようになったのは理学療法士になって3年目の時だった。学生時代からスポーツ分野の理学療法には興味があった。しかし、自分の周りでスポーツ分野に興味がある友人はおらず、学校の教員からも 「理学療法士としてスポーツ分野で働くのは難しい」と日頃から言われていた。しかし、 スポーツ分野で働きたいという考えは変わらず、就職の際にも整形外科、スポーツ障害に力を入れている病院を選んだ。そこまで、スポーツ分野の理学療法に拘ったのは自分が学生時代にケガに苦しんだ経験があることと、理学療法士としてスポーツ分野に携わりたいという思いがあったからだ。

 

2 医療系の資格として理学療法士を

大学2年だった当時、スポーツリハビリテーションという授業があった。この授業を受けた時、スポーツ現場でドクターや他職種と連携して活躍する理学療法士の話を聞いた。選手のリハビリテーションを担当し、復帰までサポートする。単純にそんな姿に憧れた。また日本では国家資格としてトレーナーという資格がないため、医療系の資格を有する者がトレーナーとしてスポーツの現場で働いているという話も聞いた。そこで私は他にもある医療系の資格の中から理学療法士を選んだ。理由はドクターとの連絡がとりやすいこととリハビリテーションのスペシャリストである理学療法士になりたかったからである。

 

3 理学療法士としての病院勤務

理学療法士として働き始めると、勤務していた病院が「スポーツ障害に対するリハビリテーションに力を入れたクリニック」ということもあり、ジュニア年代から学生スポーツ、社会人の競技レベル、スポーツ愛好家まで様々な年代のスポーツ障害を診ることができた。日々臨床で患者さんとしてくる学生やスポーツ選手のリハビリをする中で、 当初はケガした選手をいかにスポーツの現場に復帰させるかがテーマだった。しかし、 クリニックで患者さんとして選手を診ているうちに本当にそれでいいのだろうかという疑問が出てきた「スポーツの現場に復帰させる」これは最もだが、スポーツ現場に復帰するということは選手としては当たり前のことだ。「ケガをした選手たちが復帰するまでのリハビリ期間にだって意味はある」入職当初から、私はそのような思いがあった。選手たちがケガをして復帰するまでの期間は、選手自身が自分の身体を見つめ直し、もう一段階高いレベルに成長するための準備段階だと。それならば、受傷以前の状態に戻すだけではなく、受傷以前より高いパフォーマンスを発揮できるようにならなければ、私たちが介入する意味がないと感じるようになった。リハビリを通じて「受傷以前より高いパフォーマンスを発揮する」それが私自身のリハビリテーションに対する考え方の基礎となった。

 

4 トレーナーとして現場へ

病院の勤務で最も悩んだことは、スポーツ現場での選手の動きや指導者の声を見たり聞いたりすることができないことだった。当然のことながら選手の状態は病院のリハビリ室とスポーツ現場では異なる。それは身体的な部分も心理的な部分もあった。私自身、 病院で担当していたACL再建術後の高校のバスケットボール選手が復帰後に、最後のインターハイ予選直前に反対側のアキレス腱を断裂するという苦い経験をした。
その時、もし現場でその選手の動きを見ることが出来ていたら、現場介入できて直接選手に声かけが出来ていれば、監督と話ができていればと後悔した。この経験が、病院の中だけで完結せず「スポーツの現場で選手の間近でサポートしたい」と思うようになるきっかけとなった。
それから、しばらくして都内の高校の女子バスケットボール部にトレーナーとして介入する機会が得られた。元々は選手がケガをして通院をしていたのがきっかけだったが、 実際に試合会場まで行き顧問の先生に直訴して、トレーナーとしての現場介入をさせてもらうようになった。

 

5 現場で感じたトレーナーという仕事の本質

トレーナーとしてスポーツ現場で介入すると決まってから、知り合いのトレーナーにも、どのように介入していけばいいのか相談した。そのトレーナーから言われたことは 「現場にマニュアルはない」ということだった。トレーナーとして自分がどのようにチームに介入していきたいか、チームからどういうことを望まれているか考えて介入しなくてはいけないと。トレーナーの仕事にこれをやらなければいけないという決まりはない、自分がチームにとって必要だと思うことをやればいいと。
トレーナーとしてチームに関わり始めて、まず初めに私がしようと思ったことは障害発生頻度の減少させることだった。まずは選手たちが良いコンディションで試合に臨むことが最優先だと考えていた。 「100%のコンディションで試合に臨むこと」それは、クリニックでリハビリをした選 手が最後の最後で試合に出られなかったという私自身の経験も影響していたかもしれ ない。ウォーミングアップ、ストレッチ、コンディショニング、トレーニングなど選手たちが常にベストコンディションでいられるよう自分にできることは全てやろうと思っていた。
しかし、障害発生頻度を減らそうと現場で介入を始めたが、介入していく度に疑問を抱くようになった。それは、「選手がトレーナーに本当に望んでいることは何だろうか」 ということだった。
トレーナーとして活動し始めた時に抱いた「選手が100%のコンディションで試合に臨むこと」このこと自体は間違ってはいないと思う。だが、これが本質かというとそうではないと思う。なぜなら、選手は100%のコンディションで試合に臨むことを目標としているとは限らないからである。選手が目標とするのは勝利であり、ハイパフォーマ ンスである。100%のコンディションで試合に臨むというのは、勝利という目的を達成 するための手段の一つであって、100%のコンディションで試合に臨むこと自体は目的にはなり得ない。主役は選手であり、監督、コーチであり、チーム関係者である。彼らが何を求めているか、そして求めているものに対して我々は何ができるのか。その本質を見極める能力がトレーナーには必要であり、最も選手やチームに必要な最優先事項を見出し、選手や監督のニーズにいち早く応える。これこそがスポーツトレーナーの仕事の本質ではないかと思う。

 

6 私が感じたトレーナーのあるべき姿

「トレーナーの現場にマニュアルはない」この言葉はその通りだと思う。現在トレーナーと称してスポーツの現場で活動する人の中でも介入の仕方は様々であるし、どれが正解でどれが間違っているとは言い切れない。ただ大切なことは、目の前の選手にチームに対して最善を尽くせているか。「最も選手にチームに必要な最優先事項を見出し、 選手や監督のニーズにいち早く応える」ということが出来ているか。そのために、どれだけの時間を選手やチームのために費やせるか、どれだけの覚悟を持って選手やチームの中に入っていけるかだと思う。