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2017年05月14日

鋭いドリブルに隠された宮本武蔵の足づかい

ディフェンスが反応できないほどの鋭いドリブル能力をもつトップアスリートはどのような身体操作を身につけていると思いますか?
 
JARTA認定スポーツトレーナーの萩潤也です。
 
ディフェンスを抜くための身体操作には様々な要素が含まれていますが、今回は足部の使い方に視点を置いてお話ししたいと思います。

 

<速度と早度>

 
競技中では静止した状態からやドリブルした状態等と様々な状況が想定されますが、どんなパターンでも相手よりはやく動くというスピードが求められます。
 
スピード(はやさ)には2種類あり、速度早度に分けられます。
 
速度 = 時速〇〇kmなどの距離÷時間の値
 
早度 = 動作の立ち上がりのはやさ
 
ディフェンスを抜き去るためには相手の反応速度を上回ることが求められます。
必ずしも最高速度がはやい必要はなく、むしろ初動数歩のはやさが鍵となります。
上記したスピードにおいて速度よりも早度が重要となり、足部のある部分を使うことで早度を高めることが可能になります。
 
あなたはどの部分だと思いますか?
 
一般的にスピードをより速くするためにはつま先で床を蹴るような動きがイメージされるかと思いますが、その部分とはつま先ではなくかかとなのです。
 
 
では何故かかとを使うと早度が高まるのかということを力学的な視点から説明します。
 
 
 

<つま先とかかとにおけるモーメントアーム>

 
○通常の状態
ニュートラルな状態では重心落下線は外果の前方を通り、重心落下点はつま先からみて大体足サイズの2/3の位置にきます。足のサイズを27cmと仮定すると、つま先から約18cmの距離となります。

(写真①)(アプリ Skeleton VISIBLE BODY より引用)
 
 
○つま先推進
つま先を支持点にして前進しようとすると、重心落下点をつま先より前に移動させなければなりません。重心落下点を移動させると、モーメントアーム約18cm分のロスになります。
ロスがある分動き出しは不利ですが一歩の移動距離を長くすることが可能です。

(写真②)(アプリ Skeleton VISIBLE BODY より引用)
 
 
 
○かかと推進
かかとを支持点にすると、普通に立った状態で約9cmのモーメントアームがかせげます。重心落下点を移動させる必要もないため、動きの立ち上がりが速くなります。

(写真③)(アプリ Skeleton VISIBLE BODY より引用)
 
 
 
モーメントアームはプラスに長いほど前進する動きだしのはやさには有利となるため、つま先推進とかかと推進のプラスマイナス約27cmの差は動きだしの一瞬において非常に大きな違いであるということが言えます。
 
 
 
 
 
このかかと推進の身体操作は日本古来より存在しており、江戸時代の剣聖と謳われた宮本武蔵は「五輪書」において次のように記述しています。
 
足のはこびやうの事、つまさきを少しうけて、きびす(踵)をつよく踏むべし。
昔の剣術家の戦いとは負ければ死を意味し、宮本武蔵はその一瞬で生死が決まると言っても良い戦いを60回以上もしています。
相手に察知されず一瞬のうちに懐に入るための足使いの鍵として、かかとが大事であると説いています。
 
 

<足部と大腿筋群との関係>

 
早度が高まる理由には力学的な視点の他に、大腿筋群(大腿四頭筋・ハムストリングス)との繋がりがあります。
実際に立位の状態から動き出す際に床をつま先で踏み込む、かかとで踏み込むの2種類を試してみてください。
 
つま先で踏み込む:一瞬のタメが起こり移動に時間がかかるだけでなく、前もも(ブレーキ筋である大腿四頭筋)の力みが感じられます。
 
かかとで踏み込む:裏もも(アクセル筋である上部ハムストリングス)が働き、予備動作のない落ちるような推進力が感じられるはずです。
 
上記したモーメントアームに有利・アクセル筋が連動する(拮抗筋のブレーキ筋がゆるむ)という2点からかかと推進は動き出しにおける早度を高めるために有効であると言えます。
 

<まとめ>

 
・スピードには速度と早度の2種類あり、対人競技では早度が重要
・早度を高めるにはかかと推進が力学的に有利
・かかと推進はアクセル筋と連動する
 
実際の競技では様々な状況が想定されるため、全ての局面においてかかと推進を使わなければいけないということではありません。しかし力学的に有利な身体操作を身につけることは、ハイパフォーマンスの実現に必要不可欠であると言えます。
 
最後までお読み頂きありがとうございました。
 

 
参考図書
「宮本武蔵は、なぜ強かったのか?『五輪書』に隠された究極奥義 水 」
高岡英夫
 
 

JARTA公式HP

http://jarta.jp